じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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2010年版・岡山大学構内の紅葉(2)時計台前のアメリカフウ(モミジバフウ)が色づき始めている。なお、岡山では、24日と25日の2日間で10.5ミリの降水量を記録した。このあとは一時的に冬型になるという。


10月25日(月)

【思ったこと】
_a1025(月)日本心理学会第74回大会(32)自然環境と心理学(11)指定討論(2)/まとめ

 指定討論2番目では、まず、書誌情報に基づき、環境心理学に関する学術雑誌や論文数が1971年ころから増加していること(特に、1996年以降は論文数が急激に増加)、また、自然環境に関する近年の研究動向としては、
  1. 自然環境が人の心理・行動に与える影響
  2. 自然と【の】心理的結びつきが心理・行動に与える影響
  3. 自然環境が人に好まれるメカニズム
の3点、特に1.が多いというグラフが示された。

 次に、Kaplan & Kaplan(1989)やUlrich(1984)による、自然環境に触れることがストレス提言や疲労回復に有用であるとの研究が紹介された。前者は注意回復理論(認知的側面を強調)、後者は心理進化論(感情的側面を強調)として知られている。

 さらに、Fredrickson(2000)の「拡大-構築理論(broaden and build theory)」の図式が紹介された。要するに、ネガティブ感情は、闘争か逃走というように、人々の思考−行動レパートリーを狭くするのに対して、ポジティブ感情は、レパートリーを広げ、well-beingや健康の増加をもたらす可能性があるというもの。ポジティブ感情を経験すると、思考-行為レパートリーが拡大し、これによって永続的な個人資源が構築され、人々を変容し上向きの螺旋を生み出し、これがさらにポジティブ感情の経験へとつながっていくという図式であった。この理論の概略はよく分かったが、このことと、今回のテーマの自然環境とはあまり関係が無いようにも思えた。

 最後に、自然環境を扱った研究の留意点として、
  1. 得られる現象にアーチファクトが混入しやすい(個人的な出来事や気象など)
  2. 自然環境あるいは刺激の妥当性
  3. 適切なコントロール条件とは何かを吟味する必要(これがちゃんとしていないとエセ科学になる)
  4. 何がそのような結果をもたらしたのかについてのメカニズムの解明が必要(回復特性との関係、生理的なメカニズム)
  5. 何を目的とした研究なのか
 これら5点はまことにごもっともであろうと思った。もっとも1.に関しては、10月23日の日記などで述べたように、自然との関わりが具体的に何を意味しているのか、主観的well-being向上の何に寄与しているのかといった研究ではむしろ、個人本位の長期的観察などを通じて、自然との関わりの内容をきめ細かく追っていくことのほうが生産的ではないかという気もする。今述べた点は、2.〜4.にも当てはまるだろう。

 5.に関しては、たとえば、都市の景観設計のように、そこの住民全体に影響を与えるような環境の効果を検証する場合と、その中で暮らす人が自然とのふれあいによってどのような生きがいを獲得していくのかという場合では大きく異なるであろう。なお、11月27日〜28日に開催される日本質的心理学会第7回大会では、
  • ◇「農と心理学:根づくこと・根を張ること」  担当 石井宏典(茨城大学)
  • ◇「野生の知としてのフィールドワーク探訪:大橋英寿研究室に学ぶ」  担当 松本光太郎(茨城大学)
といった、自然環境に関する質的心理学的アプローチが取り上げられる模様であり、大いに期待している。


次回に続く。