じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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§§ 岡山では12月2日の17時すぎから雨が降り始め、24時間降水量16.5ミリというまとまった雨となった。しかし夜半には雨もあがり、12月3日早朝には東の空に月と金星が出現した。天文年鑑によれば、月と金星は12月3日の5時37分に、6°26′まで接近。月齢は26.7。金星のほうは12月4日の23時30分に最大光度マイナス4.7等、視直径47″.1となる。

12月2日(木)

【思ったこと】
_a1202(木)日本質的心理学会第7回大会(6)段ボールハウスは現代美術の作品か、路上生活者の宿か(3)

 昨日の続き。

 スライドレクチャーの後半では、Kawamata Coal Mine Project Tagawa、医療法人・浅井病院(千葉県東金市)をフィールドとした「精神医療とアートプロジェクト」の取り組みが紹介された。

 前者の取り組みはリンク先に紹介されているような内容であったようだ。田川市から無償で借りた公園の一部に集会所棟、事務所棟などを建築したが、ネットで検索したところ、こちらに関連記事があり、それによれば、地元の建築士から1997年に最初に建てた集会所が違法建築ではないかとの指摘もあったようだ。これに対して、川俣氏は、これらは建築物ではなくアート作品であると説明したという。その後、土地の借り受け期限が到来し、市長も代わったことによって田川市はこのプロジェクトを継続しないで解体することを決断した。集会所棟、事務所棟、物見棟、図書館棟、倉庫棟、船の展示棟、韓国の炭住を移設したものはすべてを解体され、建設予定であった50mの鉄塔の模型は田川美術館に寄贈されたという。実際には、田川市は土地を貸与しただけで、建築はボランティアの協力を得た自己負担であったようだ。また、リンク先の記事には
...実は彼【川俣氏】は北海道の炭坑町の出身。作品はいつも残さず解体してきたが、今回は10年を単位としてスタートし、解体することは前提になく、できれば市に運営を委ねてアートパークのようになっていけば良いと考えていた。...
と記されていた。

 いっぽう、浅井病院での取り組みのほうは、「地域精神医療と芸術表現に関する総合研究(平成16年−18年度・科研基盤研究(B))」と「地域医療と芸術の臨床をめぐる相互作用に関する総合的研究(平成21年度・科研基盤研究(B))」の配分を受けたものである。そこでのコンセプトは
  1. 精神医療というプラクティス−アンチスティグマ
  2. 臨床から帰納されるセルフ・エディケーション
  3. アートに対するスティグマ
  4. 数量化に寄らない医学研究
  5. 精神療法的な「場の変容」
といったところにあったようだ。と記してみたが、ここで紹介された研究の中で「スティグマ」や「アンチスティグマ」が具体的にどのような部分に連関するのかはよく分からなかった。「アートに対するスティグマ」についてはフロアからも質問が出されていたが、ますます分からなくなった。

 また「数量化に寄らない医学研究」というのは、質的心理学に近いコンセプトであるようにも思えたが、では何をもってエビデンスとするのかはよく分からなかった。というか、質疑の中でも、とにかく、浅井病院での取り組みはアートセラピーとは異なっており、またそもそも、あるいは、何かの成果を得るために芸術を利用するというのは偽善である、というように言及されていた。(←長谷川の記憶に基づくため不確か。)

 ネットで検索したところ、浅井病院で行われた成果報告書のようなコンテンツがキャッシュで残っており、そこでは
【協働を目的とした場のデザイン】医療法人・浅井病院(千葉県東金市)をフィールドとして、平成16年度および平成17年度に行った病院外に設置したオルタナティヴスペース(病院のシステムとルールに規定されていない場所)のデザインをさらに発展させて、ワークショップを3年間にわたって、のべ115回実施した。精神障害者や病院スタッフおよび地域周辺住民を含めた協力者とともに、複数のステークホルダー(利害関係者)が様々な利害と趣向をもった参加意識がある場所で特定のアートプロジェクトのプログラムに与えられるような場合に、正しい利害調整や目的意識が可能となることを記述した。
【アートプロジェクトとコミュニティケアをめぐるマイクロエスノグラフィ】平成16年度に続いて、ビデオ、絵画、写真を表現媒体とするワークショップを継続的に開催した。この実践を通じた知見を通じて、美術の文脈にはない媒体が与えられても学習や参加の意識の獲得を目的とした園芸(植物栽培)に関するワークショップを提案し実施した。また美術のジャンルでは認知されにくい媒体であっても、場のデザインに応じたプログラムの提示によって良好な結果が得られることを記述した。以上の研究課題に関するアプローチや成果の発表は、精神神経医学分野での成果(経過)発表のみならず、ワークショップ開催や地域でおこなわれているアートプロジェクトや美術館での展示を通じた成果発表を、研究終了後も継続している。
とまとめられていたが、難しい言葉が使われているわりには、何が具体的な成果であったのかがよく分からない。報告書の体裁を整えるためのつじつま合わせのような印象も受ける。浅井病院の研究では、病院の隣に巨大なビニールハウスのようなものが設置されてその中でビデオ撮影した日常生活風景や、利用者が自画像を描く(←但し、統合失調の人に自画像を描いてもらうことは必ずしも良い効果をもたらすとは限らないというクレームがついたとか)といった作業が行われていたようだが、なぜビニールハウスでないといけないのか、ひょっとすると科研の制約上、仮設のプレハブなどはOKだが備品となるような建築物は建てられないために苦肉の策としてビニールハウスになったのではないか、それを「半透過性」何とかと言われても具体的な効果が不明ではないか、というような印象も受けないわけではない。

 なお、川俣氏のプロジェクトというのは決して短期的なイベントではなく、数年から10年に及ぶような中期的な取り組みが多いようである。そのさい、それぞれのプロジェクトには何かの達成をもって完成するのではなく、大部分が「中断」で終わるのだという。また、現実には盛り上がらないままに終わったプロジェクトもあり、計画が実現した率は50〜60%にとどまっているということであった。

次回に続く。