じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 早大周辺のネコ風景。
  • 写真上:ネコに縁のある夏目漱石の名を冠した坂
  • 写真中:某キャンパス内で見かけた「餌やり禁止」の看板。岡大構内にも同じようなポスターを見かける。
  • 写真下:某大学正門で寝そべるネコ。


9月20日(火)

【思ったこと】
_b0920(火)日本行動分析学会第29回年次大会(4)許可の随伴性・阻止の随伴性・ルール支配行動:青年・成人臨床事例からの再考(1)

 大会第二日目の夕刻には

【16:00〜18:00】許可の随伴性・阻止の随伴性・ルール支配行動:青年・成人臨床事例からの再考

という自主企画シンポジウムが開催された。このシンポには私自身も指定討論者として加わっていたので、少々詳しく、メモ・感想を記しておくことにしたい。

 シンポではまず、企画者から青年・成人臨床事例において、認知行動療法と機能分析をめぐる葛藤があること、強迫性障がいの事例がルール支配行動と関連しているのではないか、それらをふまえて
  • 成人臨床における阻止の随伴性による機能分析の有用性とルールとの関連性は?
  • ルールそのものが持っている機能とは?
  • 不適応的だけでなく、適応的なルールもあるのではないか?
といった問題、さらに、阻止の随伴性やルール支配行動の理論的・臨床的な意味と有用性について議論する必要のあることが提起された。

 企画者からはさらに、「許可の随伴性」と「阻止の随伴性」の対称性や、ルール支配行動についての基礎的な説明や問題提起が行われた。その中では、
  • 「阻止の随伴性」に関する従来の随伴性ダイアグラムでは、直前条件のところに「やがて○○という変化が起こる」というような時間経過が述べられているが、これでは条件とは言い難いので「ある反応が生じないと/やがて起きる可能性の高い事態の変化を/その反応をすることで/事態の変化を阻止する/その結果、その反応は生じやすくなったり/生じにくくなったりする」というような形で定義してはどうか。
  • 上記に対応させて、「許可の随伴性(基本随伴性)」のほうも「ある反応が生じないと/やがて起きる可能性の低い事態の変化を/その反応をすることで/事態の変化を起こさせる/その結果、その反応は生じやすくなったり、生じにくくなったりする」というように定義できる。
というようなご提案があった。確かにこの説明は分かりやすいと思った。

 このほか、ルールについても言及があったが、ここでは省略させていただく。

 以上のような議論があるにもかかわらず、行動分析学の入門書の中で阻止の随伴性について言及されているものはきわめて少ない。じっさいマロットの教科書や、その日本語版(杉山ほか, 1998)以外では、阻止の随伴性を扱ったものはきわめて少ないということが、著名な入門書を引用しながら主張された。

 なお、長谷川の指定討論の中でも言及させていただいたが、「阻止の随伴性」概念は、マロット先生が佐藤方哉先生との交流の中で定式化したものというのが通説になっているが、スキナー自身も、それに近いアイデアを持っていたことは、1979年の日本での講演の一節にも示されている。
...Industrial incentives are really punitive. We think of a weekly wage as a kind of reward, but it does not work that way. It establishes a standard of living from which a worker can be cut off by being discharged. Workers do not work on Monday morning because of the pay they will receive at the end of the week; they work because a supervisor will discharge them if they do not. Under most incentive systems, workers do not work for things but to avoid losing them.
【Skinner, B. F. (1990). The non-punitive society. 行動分析学研究, 5, 98-106. 【スキナーが慶應義塾大学で1979 年9 月25 日に行った講演録の転載。オリジナルは、『三田評論』1991 年8・9 合併号Pp.30-38.に所載。佐藤方哉氏による邦訳つき】
要するに、賃金労働は、賃金という好子出現の随伴性ではなくて、定期的に受け取れるはずの好子が(解雇されることによって)消失することを阻止するための働くというシステムになっていると指摘されており、これはまさに好子消失阻止の随伴性のことを言っているのである。

次回に続く。