じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 時計台と文学部を突き抜ける夕日。

 耐震改修工事完了に伴い、自然科学研究科棟から文学部の新研究室まで毎日少しずつ荷物の運搬をしている。写真はそのさいに偶然に目撃した「建物を突き抜ける夕日」。建物の西側にある太陽の光がガラス窓を突き抜けて東側の立ち位置まで届く現象であるが、これまでは、この時間帯に東側エリアを歩く機会が殆ど無かったため、そういう光景が見られることに気づかなかった。

 この現象が見られる時期は、(建物がきっちりと東西方向に配置されているため)、沈む前の太陽が真西に位置する時期に限られると推測される。太陽が真西に沈むのは春分、秋分の前後であるが、それでは低すぎでガラス窓に差し込んだ光は東側の立ち位置には到達しない。太陽がもう少し高い位置にある時(日没より1時間半前の太陽の方位が真西にくる時期)、おそらく春分の1ヶ月後と秋分の1ヶ月前あたりが見頃になるのではないかと思われる。


4月19日(木)

【思ったこと】
_c0419(木)行動が起こる原因と、行動が増えたり減ったりする原因

 木曜日の教養教育科目の授業(「行動分析学入門」)で、行動の原因をめぐる議論について話をした。備忘録を兼ねて要点をここに記しておく。

 行動分析学は行動の原因を解明する学問だとされているが、厳密には、(オペラント)行動が増えたり減ったりする原因を分析する学問であって、(オペラント)行動が生じる根本原因を同定する学問ではない。なぜなら、オペラント行動は、人間や動物が「自発する」行動として定義されているからである。まずは「行動の自発」を前提として、それが強化や弱化や消去、あるいは確立操作などによってどのように増えたり減ったりするのかを分析し、応用をめざすのが主たる目的である。ある行動がなぜ自発されるのかという問いは、もう少し別の学問、つまり進化の過程で、その動物がどのようにして当該行動を自らのリパートリーに組み入れたのか、あるいは、当該行動を可能にするような骨格や筋肉がどのようにして形成されたのかという視点から説明されなければならない。例えば、ハトがなぜ飛ぶのか、ダチョウはなぜ歩くのかという問いは、行動の自発に関する問いなので、行動分析学は答えることはできない。行動分析学ができるのは、ハトをどういう時にどういうふうに飛ばすのか、ダチョウをどれだけ走らせるのかといった行動の増減に関する課題である。但し、単に、行動の量を増やす減らすというだけでなく、行動を精緻化したり、適確に連鎖させるというようなことも課題に含まれる。例えば、ピアノを弾くという行動の場合、初心者がデフォルトで自発できることは、指で鍵盤を叩くというだけに限られる。ピアノの演奏をするには、いろいろな指を次々と動かして鍵盤を滑らかに叩く必要があるが、これは行動分析学の対象範囲に含まれる。いっぽう、いくら行動分析学が発展しても、人間に自力で空を飛ばせることはできない。なぜなら、空を飛ぶという行動は人間の行動リパートリーには最初から含まれておらず、かつ、人間は空を飛ぶのに必要な骨格、筋肉、体重(軽さ)を備えていないからである。

 このほか、原因をめるぐ一般的な議論として、
  • アリストテレスの四原因説。行動分析学でいう「行動の原因」は「動力(作用)因」に相当する。但し、Rachlinのように、目的因まで言及する必要を説く人もいる。
  • 原因の同定は、視点やニーズによって変わる。例えば、腕時計のガラスをハンマーで叩いたら割れたという時の原因は、一般的には「ハンマーで叩く」という行為にあるとされるが、「ハンマーで叩いても割れない丈夫なガラス」をセールスポイントにしている製品の検査の工程であれば、ガラスが割れた原因は、製造工程上の欠陥にあると見なされるであろう。
  • 殺人事件の原因は犯人の行為にあるとされるが、これは、その社会において、犯罪を抑止し類似事件の再発を防止するというニーズがあるためと考えられる。殺人の原因自体は複合的であり、例えば、(保険金目当てであれば)高額な生命保険がかけられるという制度、凶器が簡単に入手できるという問題、被害者が犯人と遭遇してしまうことについての原因など、種々多様な原因が別にありうる。
  • 原因と結果は必ずしも直線的ではないし、1つの原因からツリー状に因果の連鎖が広がっていくというものではない。中には円環状に循環する現象もある。よって「物事にはすべて原因がある。よって第一原因が存在しなければならない。」というような、カルト宗教がよく使う論法は必ずしも成り立たない。
  • 何百人も居合わせた中で特定個人がたまたま事故や犯罪の被害者になったという場合、その原因を自然科学的に解明してもあまり得るところはない。被害者家族の「なぜこの人が?」に応えるためには、例えばナラティブ・セラピーのような、科学とは違う形での対応が必要となる。
  • 原因には、十分原因と必要原因がある。
  • 勝因と敗因(あるいは、成功因と失敗因)のとらえ方。勝因(成功因)には偶然が含まれており、当事者であっても十分原因すべてを挙げることはできない。よって、成功本を読んだからといって、必ずしも同じように成功できるという保証は無い。いっぽう、敗因(失敗因)は具体的に同定可能であるが、敗因(失敗因)を除去したからと言って、それだけで次回はうまくいくとは限らない。
などなどについて、論じた。