じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



01月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る

 妻の実家のある北九州は全国でも高齢化が進んでおり、こちらの資料によれば、平成25年3月末時点の高齢化率は26.2%に達している。妻の実家のある八幡東区はその中でも最も高く、総人口71,727人のうち22,749人が65歳以上であり、高齢化率は31.7%。
 そのこともあって、昔ながらの住宅地には、空き家や空き地、さらには、取り壊しをするお金も無いのか、長期間放置されている廃屋がある。写真は散歩道沿いで定点観察している廃屋。もっとも、人間の老化に比べると、廃屋の崩壊はそれほど進んでいないようにも見える。


2014年1月5日(日)

【思ったこと】
140105(日)100分 de 幸福論(2)自由と幸福/『好色一代男』

 昨日も述べたように、このスペシャル番組では4つの分野からの名著が紹介された。

 番組の冒頭では、プラトンの饗宴(シンポジオン)のつながりで、哲学で幸せがどう論じられたのかが話題になった。西先生によると、
  • プラトンの弟子はアリストテレスは幸福についてまとまったことを書いており「人間の活動は最終的には幸福を目指している」(『ニコマコス倫理学』)と述べたが、その後はあまりテーマになっていない。
  • 18世紀は身分制やしきたりが厳しい時代であったため、近代哲学では「幸福」ではなく、「自由」が問題となった。
  • 19世紀末頃、自由が広まってきた中で幸福論が出てきた。【ヒルティ、アラン、ラッセルの三大幸福論は、それぞれ1891年、1925年、1930年に刊行されている】
ということで、西洋社会においては「幸福」と「自由」は密接に関連してきた。このあたりは、
The more choice people have, the more freedom they have, and the more freedom they have, the more welfare they have.
選択肢が多ければ多いほど、より多くの自由が得られる。より自由であればあるほど、より幸せになれる。
というドグマが誰も疑わないほどに西洋の産業社会に浸透していると述べた、シュワルツの指摘に一致している【2013年8月22日の日記参照】。但し、西洋的な自由観から日本あるいは東洋的な幸福観を捉えようとすれば無理が出てくるようにも思う。

 番組では続いて、まず文学部門として、島田雅彦氏による、

●『好色一代男』&『好色一代女』井原西鶴

が紹介された。島田氏によれば、文学は理論的に幸福に迫るというより、一人の人間の生き方や死に方を描くことで結果として幸福論になるというスタイルをとる。時代ごとに要請されるものは異なり、近代文学では「立身出世と挫折」、前近代では「制約からの解放」が主なテーマになっていた。

 さて、ウィキペディアの当該項目にも記されているように、この作品は、源氏物語54帖にならい主人公・世之介の人生を7歳から60歳までの54年間で切り取っており、世之介が一生のうちに交わった人数は、「たはふれし女三千七百四十二人。小人(少年)のもてあそび七百二十五人」と作品中で書かれているという。

 番組ではこの作品について多角的な考察が行われた。
  • 世之介の親の遺産は400億くらいあったが、いかに贅沢な暮らしをしてもせいぜい1年間に2〜3億、多めに見積もっても4億しか使えない。遺産の総額は損益分岐点を遙かに超えている。
  • いろいろな相手と関係するというのは、【最愛の人が見つけられなかったという点で】非常に不幸な人だったという見方もできる。源氏物語の光源氏は永遠に母親の面影を求めて遍歴を重ねるという点では、永遠に幸せを見つけられない不幸な人であったかもしれない。いっぽう、世之介の場合は遺産を食いつぶすことで「父殺し」が達成できたかもしれない。
  • 『好色一代女』と併せて、【当時の町人にはできないが】自由の息吹が読み取れる。
  • 世之介が散在することは一種の「社会還元」である。彼がお金を使えば周辺の人にお金が回っていく。コミュニティの中で関係の中で生きている以上は、貯め込んだお金は共有されなければならない。そうしない人は不名誉な存在として批判される。

 上掲のうちの最後の「散在の社会還元」であるが、このWeb日記で何度も述べているように、私は、お金というものは、個人にとっては習得性好子として機能する面があるいっぽう、その本質は、
  • 他者からサービスをしてもらうためのツール
  • 資源を独り占めするためのツール
であって、お金がお金として機能するためには、
  • お金を獲得しないと平穏な生活が維持できないという、好子消失阻止の随伴性。これは通常、貧富の差の中で実現される。
  • 蓄財や私有を保障する国家権力
が前提として必要であると考えている。世之介の散在が有効に機能するためには、お金を得ることを目的に世之介にサービスを提供する人々が存在する必要がある。それらのサービス活動(売春、世之介の身の回りの世話、衣食住の保障、世之介の相手をした人たちの衣食住の保障など)は、お金を得ないと生活できないという好子消失阻止の随伴性によって維持されており、これは格差社会でなければ成立し得ない。仮に、周辺の人たちがみな自給自足や互助互酬で豊かな生活を維持していたとしたら、世之介がいくらお金をやるといっても誰もサービスを提供してくれない。世之介のところにある莫大な金貨は石ころ同然に化してしまうのである。


次回に続く。