じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 台風15号は8月25日朝、熊本県荒尾市付近に上陸し、北九州市西部から日本海に抜けた。岡山では昼過ぎの12時21分に最大瞬間風速24.1mを記録。大学構内では自転車がバタバタと倒れていた。24時間雨量のほうは22.0ミリにとどまった。
  • 写真上段は、雨と風の様子。
  • 写真中段は、夕刻18時30分過ぎに出現した虹。
  • 写真下段2枚は、日没風景。


2015年08月25日(火)


【思ったこと】
150825(火)『嫌われる勇気』(45)「関係フレーム理論」、「ACT」との比較(4)

 昨日の続き。今回は、『嫌われる勇気』で重視されている「自らの価値」のうちの「価値」という部分について、「関係フレーム理論」や「ACT」との比較を試みることにする。

 まず、ハリス(2012)の『よくわかるACT:明日からつかえるACT入門』は、序章のところで、
...セラピーモデルの大半は、症状の緩和に重点を置いている。その根幹にあるのは、クライエントの人生をより良くするには症状の緩和が必要であるという想定である。しかしACTの根本的なスタンスは異なり、(a)人生の質を決めるのは、価値に導かれたマインドフルな行動ができるかどうかである、(b)どれだけ多くの症状を抱えていても、それに対してマインドフルに対応している限り、そのような行動をとることは可能である、と考えている。 ...症状の緩和は、重要なセラピーの成果とは考えず、あくまで「ボーナス」と見なす。 【6-7頁

というように、「価値に導かれたマインドフルな行動」が人生の質を決定すると述べている。

 また、武藤編著(2006)『アクセプタンス&コミットメント・セラピ−の文脈 臨床行動分析におけるマインドフルな展開』(絶版)の第一章でも、
機能的文脈主義の真理基準は任意に選択されたゴールの達成である。ただし、そのゴールは選択されるだけで、その正当性は証明されることはない。つまり、ゴール選択がそのまま当事者の価値(の一部)に関する表明となる。【29頁】

というように、「価値」という言葉が使われている。

 ではそもそも「価値」は何を意味するのだろうか? 8月22日にリストアップした4冊のなかで、「価値」についていちばん詳しく述べていると思われるのは、ハリス(2012)の第11章「何が大切かを知る」という章である。その冒頭の節は「価値とは?」となっており、
 価値とは、自分は人生でこれをやりたい、これを大切にしたい、いつもこんなふうに行動したい、ということを「言葉にしたもの(ステイトメント)」である。価値は、日々の生活において私たちを導き、私たちの行動を動機づける「軸となるもの(プリンシプル)」である。【318頁】
と記されていた。そしてさらに、
  • 自分の人生に意味や目的を与えてくれるものを明確にする。行動を継続的にガイドするものとして、自分の価値を使えるようになる。
  • 別な言い方をすると「選択された人生の方向性」
  • 価値とゴールを区別する。
  • 使用するタイミングは、行動の動機づけが欠けているとき。人生の豊かさ、充実感、意義が欠けているとき。
と続く。このあたりを見てもわかるように、ACTで論じられている「価値」というのは、探ったり使ったりするものであり、質的にも多種多様なものであると考えられているようである。いっぽう『嫌われる勇気』で言われている「自らの価値」というのは、「価値がある、ない」という存在に関する議論、もしくは「価値を高める」というように一次元上の量的変化に注目しているというような印象を受ける。

 ちなみに、『大辞泉』によれば、「価値」の辞書的な定義の1つとして、
哲学で、あらゆる個人・社会を通じて常に承認されるべき絶対性をもった性質。真・善・美など。
があり、機能的文脈主義に依拠したACTなどとはかなり違った意味で使われていることに留意する必要がありそうだ。

 なお、ACTでの「価値」の扱いについては
ACTのプロトコルの中には、脱フュージョンとアクセプタンス、今この瞬間、文脈としての自己を導入し終えて初めて、価値に正面から取り組むものもある。一方、セラピーの開始当初から価値を全面に押し出すものもある。どちらのやり方も一長一短だ。価値に関する取り組みは、フュージョンと回避を起こしやすい一面がある。そのため、クライエントによっては、先に脱フュージョンとアクセプタンスを習得しないと、価値を探るのを嫌がったり、ひどい困難が伴ったりする可能性がある。それと対照的に、価値に触れるまで、脱フュージョンやアクセプタンスのような努力や忍耐を要求される作業に取り組む気になれないクライエントもいる。【319頁】
と述べられており、クライエントのタイプに応じて、適切に導入時期を見定めていく必要があるようだ。

 不定期ながら次回に続く。