じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡大構内の新緑が見頃となっている。上から順に、
  • 岡大西門から眺めるアメリカフウ(モミジバフウ)と時計台
  • 黒正巌先生像から眺めるアメリカフウの新緑
  • 講義棟と図書館の間から眺める半田山
  • 文学部中庭と半田山

2016年04月20日(水)


【思ったこと】
160420(水)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(4)正の強化と負の強化の対称性と非対称性

 昨日も引用したように、本書では、
Distinguishing between positive and negative reinforcement (which are both processes that increase the probability of a certain behavior) is not always essential. 【原書14頁】
「正の強化」と「負の強化」(どちらも,ある行動の生起確率を高めるプロセスなのだが)を区別することは、必ずしも重要なことではない。【翻訳書19頁】


というかなり思い切った考え方が表明されていた。もちろんここでは、「is not always essential(必ずしも重要なことではない。)」と言っているのであって、区別しなくてもよいと言っているわけではない。ではもし、それらを全く区別しなかったらどういう問題が起こるのだろうか。

 こうした問題については少し前、

長谷川芳典 (2014).スキナー以後の心理学(22)行動随伴性の対称性と非対称性岡山大学文学部紀要, 62, 19-38.】

で詳しく論じたことがある。昨日挙げた「エアコンのスイッチを入れる」などの例も、この論文のアイデアに含まれている。

 「正の強化」と「負の強化」が完全に対称的であるならば、「プラス3を加える」が「マイナス3を減じる」と同じであるように、あるいは「プラス5を減じる」が「マイナス5を加える」と同じであるように、プラス、マイナスの符号を付け替えるだけで同じ内容を記述することができる。もしそれでよいならば、
  • エアコン冷房のスイッチを入れると、「プラスの気温」(=暑さ)が除去される。
  • エアコン冷房のスイッチを入れると、「マイナスの気温」(=涼しさ)が提示される。
は同じことを言っており、両者を区別をする必要はないと言えるだろう。

 しかし、上掲の論文でも指摘したように、実際には、さまざまな場面で、「正の強化」と「負の強化」は非対称的である。非対称的となれば、当然、単なる符号の付け替えでは記述することができない。

 以下、リンク先の論文の結論部分を再掲しておく。【一部略】
  • 強化がもたらす行動の増加と弱化がもたらす行動の減少は、量的に対称的な変化と言えるか?
  • 出現(提示)と消失(除去)という2つの操作は、符号を取り替えただけの対称的な効果をもたらすか?
という問題については、非対称的となる事例が大部分を占めている。このことからみて、随伴性テーブル、あるいは、「わずか4通りの基本随伴性で行動を説明する」という単純性の強調は、入門者には誤解を招くおそれがある。
 また、「正の」、「負の」という呼称から、符号を付け替えるだけで記述可能と誤解される点にも留意する必要がある。脚注5に述べた、

「正の」とは足し算のプラス、「負の」は引き算のマイナスという「日本語ならでは」の読み替えが可能

についても、2.3.に指摘したように、物理的な操作との違い、環境変化と操作させるモノとの不一致、私的出来事としての出現や消失の問題に留意する必要がある。
 行動随伴性は、行動の説明原理として、また応用行動分析の基本ツールとして重要ではあるが、抽象化・一般化された理論としてではなく、個々の文脈の固有の特徴に合わせて、ケースバイケースで最適の適用をはかることが求められると言えよう。
 最後に、今回は紙数の都合で論じることができなかったが、ほかに、確立操作(Establishing Operation、Motivating Operationと呼ばれることもあり)に関わる非対称性の問題があり、別途検討する予定である。

 次回に続く。