じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 昨日に続いて岡大構内の新緑の写真。
  • 生協食堂(マスカットユニオン)2階から眺める新緑
  • 雨に煙る半田山

2016年04月21日(木)


【思ったこと】
160421(木)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(5)ABCと三項随伴性と行動随伴性(1)

 昨日の続き。

 本書では、オペラント条件づけの中心原理を、

●The core principle in operant conditioning is that the consequences following a behavior (a response) influence the probability of the behavior being repeated.【13頁】
「ある行動(反応)に後続する結果が,その行動の繰り返す確率に対して影響を与える」【翻訳書17頁】

とし、かつ、ここでいう行動とは同じ機能クラスに属するという意味であることを確認した上で、「ABC」と呼ばれる機能分析とは何か、詳しく説明している。

 言うまでもなく、ABCとは、
  • A:「先行事象(antecedent)] または「先行するもの(that which precedes)] を表す。
  • B:「行動(behavior:「何か」が行われている)」を表す。この行動あるいは反応こそが,私たちが「予測と影響」を与えようとしている対象のことである
  • C:「結果(consequence)] を表す。
このABCは「三項随伴性(three-term contingency)」とも呼ばれることがあるが、本書では、「三項」という言葉は出てこない。ちなみに、随伴性という概念は、Skinnerが1953年に初めて使われた【こちらの論文参照。同じ年に刊行された『科学と人間行動』では第5章「オペラント行動」で初出。】。

 いっぽう、こちらの論文にも述べたように、「Elementary principles of behavior」 (Malott,Malott,& Trojan, (2000、日本語版は、杉山ほか,1998) の著者であるマロットらは、「三項随伴性」の呼称を「行動随伴性」に変更しており、その理由を次のように述べている【26頁】。
 ここで伝統的な三項随伴性と我々の随伴性ダイアグラムを比べてみよう。両方とも結局は同じ行動と環境との関係を表現している。違いは行動による環境の変化の記述のしかただ。三項随伴性では行動の”結果”と一言で表していたところを、我々の随伴性ダイアグラムでは、“行動の直前から直後への環境変化”としてより細かく記述している。これにはいくつか理由があるが、ひとつには、こう記述すると、さまざまなタイプの随伴性の違いがよりわかりやすくなるからだ。このことは、本書を通してさまざまな随伴性のタイプを勉強していくと、おわかりいただけると思う(特に消去)。
 もう1つの違いは、我々のダイアグラムでは弁別刺激がオプションになっていることである。随伴性によっては弁別刺激がない(特定できない、あるいは、それほど重要ではない例がかなり存在するからだ。また、これとは逆に、我々のダイアグラムには、確立操作(第10章)など、伝統的な三項随伴性にはない、他の要素が付け加えられることもある。
 我々は三項随伴性の概念が古いとか、役に立たないとか言っているわけではない。行動と環境との関係を分析するのに便利なダイアグラムを工夫しているうちに、現在の随伴性ダイアグラムの形に行き着いただけのことである。

 要するに、ひとくちに「随伴性」と言っても、A(先行事象)とC(結果)のところに何を入れるかという点では、行動分析学者のあいだでいくつかの立場があるように思われる。




 まず、上掲のマロットらが説く「行動随伴性」では、AとCのところで環境事象がどう変化したのかが記述される。ハトのキーつつきの実験で言えば、

A【餌なし】→B【キーをつつく】→C【餌あり】

となる。AとCの環境事象を明確にすることで、何が出現(あるいは消失)したのかといったさまざまなタイプの随伴性を分類したり、消去、さらには「阻止の随伴性」のような新たな随伴性をわかりやすく分類することができる。

 また、上述のハトの実験、ハトは弁別刺激がなくてもキーをつつくことがある。というか、何も弁別されない状況でキーつつき行動が強化されていないと、弁別事態も起こらない。例えば、キーの色の弁別(青色に輝いている時は強化、赤色の時は無強化)ができるようになるためには、まずは、キーをつつくという行動がちゃんと強化されていなければならない。




 もっとも、上記で餌が強化力をもつためには、ハトは空腹になっている必要がある。これは遮断化という確立操作としてAに記述される必要がある。上掲の杉山ほか(1998)では、確立操作はAに含まれるとされている。

 なお、杉山ほか(1998)には「伝統的な三項随伴性では、Aのところには確立操作は含まれていない」というような記述があるが、本書(=トールネケの本)では
【However, 】the antecedents referred to as A in ABC are those conditions that are present when a behavior occurs. Within behavioral analysis, we think of A as having at least two different types of function: discriminative function and motivational function. 【16頁】
【しかし,】ABCのAが表している先行事象は,ある行動が生起するその時点で,そこに存在している条件のことを意味している。行動分析では, Aには少なくとも2つの異なるタィプの機能があると考える。それは,弁別機能と動機づけ機能である。【翻訳書22〜23頁】
というように、動機づけ機能、つまり確立操作がAに含まれていることが明記されている。

 なお、行動というのは普通、何らかの道具なしには起こりえない。上記のハトの「キーつつき」が起こるためにはキーが存在している必要がある。「ピアノを弾く」という行動はピアノなしには起こりえないし、野球やサッカーはボールなしには起こりえない。これらはオペランダムと呼ばれるが、厳密に言えばこれもAに含めるべきかもしれない。但し、そうしたオペランダムは、それが存在していること自体が行動を引き起こすのではない。その存在が弁別されていることが不可欠である。そういう意味では、オペランダムは弁別機能の成立要件として初めから前提に含まれていると見なすこともできる。

 このほか、ABCの階層性やBとCの同時継起【長谷川(2011)参照】についても考慮する必要がある。また、オペラント行動が繰り返し生起し強化されていく過程は、

ABC→ABC→ABC→ABC→...

ではなく、過去のABCがすべて先行事象となって、

ABC→(ABC)BC→((ABC)BC)BC→(((ABC)BC)BC)BC→...

というように、本来は入れ子型に推移していくべきものであると考えているが、このあたりも後述の予定。

 次回に続く。