じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡大・石庭とヒラドツツジ。写真下は、ミラーモードで撮影。なお、ミラーモードで撮影した新緑の岡大構内の写真が楽天版にあり。 にあり。

2016年04月27日(水)


【思ったこと】
160427(水)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(11)オペラントとレスポンデント(4)習得性好子をめぐる問題

 昨日も引用したように、原書22頁(翻訳書32頁)には、無条件性強化子(unconditioned reinforcers) またはー次性強化子(primary reinforers)、条件性強化子(conditioned reinforcers) またはニ次性強化子(secdndary reinforcers)に関する記述があった。私自身は、これらを生得性好子と習得性好子という呼称に置き換えているが、故障問題は別としてそれらがどのような条件のもとで形成され、どのように機能しているのかについては若干留意しておく点がある。

 このことに関しては、長谷川版の行動分析学入門第3章その1で指摘しているが【但し、新カリキュラムに合わせて9月までに大幅改訂の予定】、特に強調しておきたいのは以下の2点である。

 第一に、無条件性強化子(一次性強化子、生得性好子)の例として「対人的な注目」が挙げられていたが、スキナー自身はこれは般性習得性好子としている。『科学と人間行動』の第5章では、この点について、
注目: 人々から注目されることが強化的であるのは、それが他の強化を得るための必要条件になっているからである。いっぱんに、注目してくれる人々だけが私たちを強化してくれるのである。特に強化を与えてくれる可能性の高い人々からの注目、つまり両親や先生や恋人からの注目は、特に良好な般性好子である。それゆえ、注目を得るための行動が特に生じやすい。特別の注意をひきつけるための言語反応も多い。“ほらそこ(Look)”、“ごらん(See)”、あるいは名前を呼びかける呼格の用法などがこれにあたる。注目を得るという理由で広く生じやすい特徴的な行動としては、他に、仮病、うるさくする、目立ちたがる(自己顕示癖)をあげることができる。 【長谷川訳】
同じ章では、「注目」のほか、「承認」、「愛情」、「従順」も、般性習得性好子でありながら生得性好子のように錯覚されてしまう事例として挙げられている点に留意されたい。

 第二に、交換価値を前提としているお金、トークン、商品券、ポイントなどは、習得性好子としての機能よりも弁別機能、もしくは確立操作としての側面を持っているという点である。この点については、長谷川版の行動分析学入門第3章その1で以下のように指摘している。
...「般性習得性好子」の代表格と言えば「お金」、あるいはそれに類するトークン(商品券、クレジットカードの利用ポイント、地域通貨、RPGゲームの経験値など)が挙げられます。
 トークンは、さまざまなビジネスにおける販促効果、地域の交流活性化のほか、発達障がい児支援、さらにはセルフマネジメント(セルフコントロール)の手法としても活用されています。
 例えば、毎日、英会話を30分間練習するというセルフマネジメントの計画を立てたとします。しかし、1週間や2週間程度それを継続しても直ちには英会話の学習成果は現れてきませんので、長続きさせることは困難です。そこで、毎日30分勉強した時には自分に1ポイントを与えるという自己契約の誓いを立てます。自己契約書には、例えば5ポイント貯まったら好きなお菓子を買うとか、10ポイント貯まったら好みのDVDを借りに行く、50ポイント貯まったら旅行に出かける、というようにいろいろな交換条件を記しておき、ポイントが貯まらないうちはゼッタイにお菓子を買ったりDVDをレンタルしたり旅行に出かけたりしないという誓いを立てます。このようにすれば、毎日30分の英会話の勉強は、その直後にポイントを獲得するという形で強化されやすくなります。
 さて、このトークンは、

●他の好子と対提示されることで好子としての機能を持った刺激、出来事、条件

あるいは長谷川版で判別条件とされた、

●別の好子の存在を前提条件として機能するような好子は「習得性好子」。

という、定義上の必要条件に加えて、
  • 他の好子と交換可能であること。【交換価値】
  • 交換期限が切れると、直ちに好子としての機能を失う
  • 有形(タンジブル、tangible)であり、数えられること。

という重要な特徴を必要としています。
 これに対して、先に述べた「注目」、「承認」、「愛情」、「従順」などの般性習得性好子は、何かと交換したり、数えられるようなモノではありませんし、交換期限がつけられているわけでもありません。同様に、金箔などの純金や宝石類、芸術作品なども、投機対象としての交換価値はあるものの、交換期限を過ぎると即刻価値を失うというようなものではありません。交換価値だけに支えられた紙幣は、革命が起こってその紙幣が無効化されたとたんにタダの紙切れになってしまいますが、金箔や宝石や芸術作品は、室内に飾っておくだけでも豪華な装飾になります。
 ということで、同じ般性習得性好子といっても、純粋に交換価値だけに支えられているような道具型のタイプと、価値創出に相当するようなタイプでは、本質的に異なる機能や特徴がある可能性があります。
 また、3.1.に述べたスキナーの「幸福の定義」から言えば、お金が単に好子であるというなら、お金を稼ぐために働くことは無条件に幸せな生活をもたらすことになるはずです。しかし現実には賃金労働は必ずしも生きがいになりません。これを考えるには、お金を好子として機能させるための確立操作、もっと言えば、他の人を働かせるためのツールとしてのお金の役割について考える必要があります。このことは、後半の応用編、「お金とは何か」で詳しく論じる予定です。
 上にも述べたように、よほどのマニアで無い限り、紙幣や商品券を室内に飾る人はいない。また、習得性好子であれば、それが中性刺激化されるのには一定回数の消去と時間が必要であるはずだが、交換価値が失われた紙幣などは一瞬にして文字通りの「ただの紙切れ」になってしまうという点で異なっている。おそらく、具体的な資金目標をもって働くといった行動は、お金が習得性好子であるからではなく(お金という習得性好子が結果として随伴することで強化されるからではなく)、「この金額に達すればこれが買える」、「海外旅行に行くために30万円を貯めよう」というようなルール支配行動として行われており、その際のお金は「あといくら貯めれば達成」というような弁別刺激として機能し、および「もう少しで達成できる」といった動機づけとして機能しているものと思われる。貯めた金額表示は、ちょうど、マラソンで20km、30km、残り3kmといった距離表示と同じように機能している。

 次回に続く。