じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 保健管理センター前のサツキ。東西通りのサツキに比べると花が大きく色も多彩だがあまり手入れはしていないようだ。

2016年05月20日(金)


【思ったこと】
160520(金)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(27)「考える」と臨床(4)

 昨日の続き。原書52頁(翻訳書74頁)の「COGNITIVE THERAPY MODELS ALSO STRUGGLE WITH THE POWER OF THINKING(認知療法モデルもまた「考える」力と格闘している)という節の冒頭にはたいへん意義深い記述がある。
The fact that a certain therapeutic model shows positive effects does not necessarily mean the theory underlying the model offers the correct explanation of these effects. Let s say I recommend a specific vegetarian diet based on the conviction that meat-eating is what brings about an increase in weight. Let's also say this diet leads to a reduction in weight. This does not necessarily mean that my explanation is correct. The diet's effect could be explained by factors other than its being vegetarian.
ある特定の治療モデルが好ましい効果を見せるという事実は,必ずしも,そのモデルの根底にある理論が,それらの効果について正しい説明を提供していることを意味するわけではない。たとえば,私が,肉を食ぺることは体重の増加をもたらすという信念に基づいで,ある特定の菜食主義の食事法を推薦したとしよう。また,この食事法が実際に体重の減少につながるとしよう。このことは,必ずしも,私の説明が正しいということを意味しない。その食事法の効果は,それが菜食主義であるということ以外の要因によっても説明されるかもしれ女い。
 上記の例でも論じられているように、ある療法が成果をあげているという事実を示しただけでは、その療法の基盤となる理論が正しいということの証明にはならない。

 私自身も、このことに関して、

長谷川(2007).心理学研究における実験的方法の意義と限界(4) 単一事例実験法をいかに活用するか.

という論文の中で論じたことがあった。例えば、

●ある子どもの勉学向上のために女子学生のXさんを家庭教師として雇用した

ということによってその子の勉学が実際に向上したとする。しかしその事実は、必ずしも、Xさんの教育方針の正しさを示したことにはならない。それ以外にも、
  • a. Xさんの使っていた教材が有効であった。
  • b. Xさんの双方向的な教え方が有効であった。
  • C. Xさんの人格的な魅力が有効であった。
  • d. Xさんの容貌の魅力が有効であった。
  • e.その他
といった可能性が考えられる。もちろん、その子の勉学が向上し続けている限りは、「うまくいっていればそれでエエじゃないか」と見なすこともできる。しかし、ここで「xさん雇用」という包括的な効果の検証ではなく、Xさんの教え方のどの要素が有効であったのかという検証を行っておけば、Xさんが個人的事情でで突然辞めた時にどう対処すればよいのか、慌てなくて済む。上記a. 〜d.のうちのいずれかであることが事前に検証できていれば、次に別の家庭教師を雇う時に、同じ教材を使ってもらったほうがよいのか、同じタイプの教え方をする人がよいのか、それとも、人格や容貌を重視したほうがよいのか、といった正確な判断ができるようになる。

 元の話題に戻るが、認知的であれ、行動的であれ、とにかく、誰かが話し相手になってくれて、自分のことを気にかけてくれているということ自体が何らかの療法的効果をもたらすことは考えられる。もっとも、効果がそれだけに限られているのであれば、心理学の専門教育を受けた人であっても、お寺のお坊さんでも、街中の長老でも、みな同じようにセラピストとして活躍できるはずである。心理学として貢献するためには、要因をしっかりと分析し、効果を検証しながら、最善のサポートを提供していく必要がある。

 原書54頁(翻訳書76頁)で、
A recently pubhshed review did, however, reach the conclusion that "there is little empirical support for the role of cognitive change as causal in the symptomatic improvements achieved in CBT" (Longmore & Worrel, 2007).
最近出版された展望論文では「認知行動療法によって到達される症状改善において,認知的変化が原因として果たす役割に関しては,実証的な支持はほとんどない」という結論に達している。
と指摘されている点を踏まえるならば、長年にわたり何らかの療法を実施し、一定の実績を残していたという場合であっても、そのことを成果として誇示するのではなく、いっそうの成果向上をめざして日々検証を行い、検証の結果次第では依拠している理論自体にも修正を加えていくという柔軟な姿勢が求められる。この柔軟を支持するのが「プラグマティズムに基づく真理基準」ということになる。なぜなら、この基準を前提としている限りにおいては、特定のドグマに縛られることがないからである。

 次回に続く。