じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 8月2日放送のモーサテによれば、7月25日〜31日のビジネス書ランキング(紀伊国屋書店調べ)で、『嫌われる勇気』が第3位をキープした。6月7日【右に再掲】と比べると分かるように、ビジネス書ランキングは入れ替わりが激しく、数ヶ月を超えてTop5以内を維持することはきわめて稀である。

2016年08月03日(水)



【思ったこと】
160803(水)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(83)アナロジー、メタファー、そして自己の体験(19)「般化オペラント」についての復習(2)

 昨日に続いて「般化オペラント」の復習。

 昨日のところで、「小説を書く」や「海岸までドライブに行く」といったマクロな行動も行動のクラスになりうるという話題を取り上げた。このように行動をマクロに捉えることについては、私自身も、

長谷川(2011).徹底的行動主義の再構成 ―行動随伴性概念の拡張とその限界を探る―

の第4節で、随伴性の階層構造というタイトルで論じたことがあった。長くなるが、関連箇所を以下に転載しておく。
 行動を定義する上でさらに留意しなければならないのは、行動は、要素的な反応群の寄せ集めではなく、入れ子構造(nest)をなしているという点である。
 例えば、「自転車通勤」という行動は、「ペダルをこぐ」、「自転車が倒れないようにバランスをとる」といった行動から構成されている。また、もし自転車通勤が地球温暖化防止策の一環として行われているのであれば、「環境配慮行動」の一要素として、クールビズ着装行動、エアコンの省エネ設定行動などとともに総合的に強化されるであろう。そのいっぽう、自転車通勤が、行動遂行者の健康増進の一環であるとすれば、それらは日々の散歩、ダイエット、スポーツジムに通う、規則的な生活をする、禁煙を維持するなどの諸行動とともに総合的に強化されるであろう。

 さらに、行動変動性(Behavioral Variability)や、手段目的関係について以下のように指摘した。
 「入れ子構造」の視点は、行動変動性の研究においても重要である(長谷川, 2008)。例えば児童公園で遊ぶ子どもの行動をとらえた場合、まずは

●砂場でどういう遊びをするか?、穴を掘るか、砂山をつくるか、水を流すか、
といった選択行動についての変動性がある。そしてさらには、同じ児童公園において
●砂場で遊ぶか、鉄棒で遊ぶか、ジャングルジムで遊ぶか、縄跳びをするか、...
といった複数種類の遊びのリパートリーについての変動性が考えられる。
さらには、毎日の遊びの時間の中で
●児童公園に行って遊ぶか、自宅で遊ぶか、友達の家に行って遊ぶか、...
といった選択における変動性が考えられる。要するに、行動変動性の程度は、どういう単位で入れ子構造を捉えるのかによって全く異なった形になる。

 もう1つ、手段−目的関係における入れ子構造にも留意する必要がある。受験勉強を例にとれば、その最終結果は
受験勉強→大学入試合格
ということにある。しかしその途中のプロセスでは、
  • 日々の日課遂行:勉強を怠ると、そのこと自体が嫌子出現、もしくは好子消失となり、それを阻止するための随伴性が働いている可能性。
  • 勉学自体に伴う好子:新たな知識の獲得。数学の問題解決など。
  • 模擬試験等の成果:偏差値向上。順位上昇。偏差値を下げないために勉強する場合は、好子消失阻止の随伴性が働いていると推測される。
長期的視点からみると受験勉強自体は大学入試合格という好子出現により強化されるが、日々の勉強は好子消失阻止や嫌子出現阻止といった別の随伴性の働きにより強化されており、入れ子構造の中で持続的に維持されていると考えられる。

【中略】

要するに、行動の入れ子構造は初めにありきではなく、社会の中で用意され、構成員によって相互に提供しあう強化随伴性、弱化随伴性の中で形づくられていくのである。そしてその随伴性こそが、Skinner(1981)が言う、「進化した社会的環境によって維持されている特殊な随伴性」であり、「文化」や「慣習」の根源であると考えられる(長谷川, 2010)。それゆえ、「文化」や「慣習」を分析するためには、当該行動の特徴や構造ばかりでなく、それを維持・強化している随伴性を同定しなければならない。

 行動のクラス(反応クラス)というのは一義的に定まるものではない。もちろん、行動Aをどのように強化してもその影響を全く受けない行動Bというものがあるかもしれない。その場合、行動Aと行動Bを1つのクラスにまとめることは定義上は困難と言わざるを得ない。

 とはいえ、マクロな行動に注目するか、個々の要素的な行動に注目するか、というのはニーズにも依存している。例えば、ある遊園地で、入園者に割引クーポンを配付するイベントを開催したとする。これによって入園者が増えたとすれば、割引クーポンの配付は来園行動を強化したということができる。この場合は、「来園行動」が1つのクラスということになり、入園料の増加を目的としている場合には、

来園行動→割引クーポン

という随伴性の導入と、入園料増収という成果だけでニーズを満たしたと言ってよい。

 いっぽう、この遊園地には10種類の遊具とレストランがあったとしよう。上記の割引クーポンの配付によって、ジェットコースターとメリーゴーランドの利用者は増えたが、レストランの利用者は全く増えなかったとする。そうなると、レストラン利用行動を増やそうというニーズのもとでは、割引クーポン配付とは別の強化随伴性を検討する必要がある。

 別の例として、毎日2時間勉強したら、ご褒美におやつを与えるという強化が行われたとする【←ここでは、おやつで強化することの是非は議論しない】。その結果、それまで30分未満であった勉強時間が安定的に毎日平均2時間というように変容したとすれば、その強化は有効であったと言うことができる。しかし、その2時間の中で、英語、数学、国語の勉強がまんべんなく行われていたのかどうかは別である。英語ばかり勉強していて、数学や国語には手をつけなかったということになれば、今度は、それらの科目の勉強を個別に強化する方策【】が必要になってくるだろう。
]単に勉強時間を増やすことが目的ということもありうる。子どもが家の中でテレビばかり視ていて(チャンネルを独占されて)困るという親にとっては、子どもが自室で勉強さえしていれば、科目が何であっても目的に適う行動と言える。この場合、「一定時間以上の勉強→強化」という介入により、一定時間の勉強行動が維持されるようになればそれでよい。いっぽう、子どもの勉学向上を目的としている場合は、時間の長さを指標とした勉強行動ではなく、例えばその時間にこなしたドリルの枚数を指標とした勉強行動を強化する必要がある。さらに、上述のように複数科目をまんべんなく学ぶという目的があれば、強化の指標を、「各科目10頁以上のドリルをこなす」という強化基準を新たに設定する必要がある。なお上記では、あくまで例示として「おやつ」を挙げたが、教育的効果を高めるための強化刺激(好子)の選定にあたっては慎重な配慮が必要である。

 次回に続く。