じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 この季節としてはかなり強い寒冷渦の南下と台風10号から送り込まれる暖気の衝突により、岡山では28日に入ってから大雨となり、午前6時までの降水量は51.5ミリとなった。8月の積算降水量は昨日までで73.0ミリ、今回の雨で合計120ミリ以上となり、平年値の87.4ミリを大きく上回ることになった。

2016年08月28日(日)



【思ったこと】
160828(日)トールネケ『関係フレーム理論(RFT)をまなぶ』(101)アナロジー、メタファー、そして自己の体験(37)「般化オペラント」についての復習(20)「般化オペラント」のルーツ(5)

昨日の続き。

Barnes-Holmes, D., and Barnes-Holmes, Y. (2000), Explaining complex behavior: Two perspectives on the concept of generalized operant classes. The Psychological Record, 50, 251-265.

は、まず反応クラス(オペラントクラス)について概観され、続いてCatania(1996, 1998)による般化オペラントの定義とその問題点が批判的に取り上げられ、論文後半では関係フレーム理論の立場からの新たな枠組みが提唱されている。

 このうち最初のあたりでは、オペラント反応クラスは機能的に定義されるという点について、以下のような記述がある【下線は長谷川による】。
Operant response classes are defined by their functions and not by their topography or form. Consider, for example, the rat's lever press. The rat may press the lever with its nose, left paw, right paw, tail, and so forth. Such responses appear different in form, but they are all lever presses and count as members of the same operant response class because they all share a common function (ie., they all produce the same consequences). Contingencies select the members of operant classes and make all of the members of the class functionally equivalent. This functional equivalence, in effect, defines operant classes.
 上記では、ラットのレバー押しが例に挙げられている。レバーを鼻先で押しても、左前足で押しても、右前足で押しても、シッポで押してもレバーを押すという機能は同一であり1つのオペラントクラスに属するというように論じられている。

 8月24日の日記では心理学事典による「反応般化」の定義(実森氏による)を引用したが、再掲すると、
一方,ある特定の反応が強化されたために,それと類似した反応も増大することを反応般化response generalization という。反応般化は,すでに獲得されている反応から徐々に新しい反応を形成していく行動形成(接近法)に必須の過程である。
となっていて【下線は長谷川による】、ここでは「類似した反応」つまり、「by their topography or form(反応の形態、強さ、位置などの類似性)を前提としていることが分かる。

 形態的類似性を採用するか、機能的な同一性を採用するかという問題は、結局、機能と構造を相補的にとらえるのか、純粋に機能のみに注目するのかという哲学的議論と、実験的事実がどちらを支持するのかという経験的な判断によって決着させるべきであると考える。

 ちなみに、Catania(1973)によれば、構成主義者として知られるTitchenerは、心理学はstructural, functional,developmentalという3つの要素によって成り立っており、それらは相補的(complementary, not incompatible)であると考えていたようである。これは生物学(biology)からのアナロジーによるらしい。
Biology included a science of structure called morphology or anatomy, a science of function called physiology, and a science of growth or development called embryology or morphogenesis. By analogy, Titchener saw psychology divided into structural, functional, and developmental components.
 もとの話題に戻るが、経験的事実から判断するというのは以下のようなことである。上記のラットのレバー押しの例で言えば、
  • 形態的類似性が重要ということであれば、前足でレバーを押す行動が強化されたラットは、あくまで前足を使ってレバーを押し続ける。但し、より強い力でレバーを押したり、レバーの高さが変えられてもそれほど影響を受けない。このラットが時たま、鼻先やシッポでレバーを押すことがあったとしてもそれは偶発的に起こった独立した学習であり、同じ反応クラスであったからとは言えない。
  • 機能的定義が重要であるという立場から言えば、前足でレバーを押す行動が強化されたラットは、前足を縛られていたり前足で別のことをしていたり(餌を掴んだり、金網につかまっていたり)している時は、鼻先やシッポでレバーを押そうとするであろう。そのさい新たな条件づけは不要。
 もっとも、種々のオペラント反応に際しては、前足で押す時や鼻先で押す時の感覚刺激、レバー自体がもたらす視覚刺激など、さまざまな環境刺激が弁別刺激になっている。純粋に反応レベルだけの条件設定で、形態的類似性と純粋な機能的定義のどちらが有用であるのかを、実験的に確認することは難しい。

 次回に続く。