じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 常緑樹に囲まれるカイノキの紅葉。カイノキの実は鳥の好物であり、思いも寄らぬ場所から発芽することがある。写真左は常緑樹の植栽の中、写真右は文学部西側のカイヅカイブキの近くから勝手に発芽・生育したもの。
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2016年11月21日(月)



【思ったこと】
161121(月)関係反応についての講義メモ(15)弁別、オペランダムの定義(3)

 昨日の日記で、

杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャードW. マロット・マリア E. マロット(1998). 行動分析学入門. 東京:産業図書.

をもとに、刺激弁別やオペランダムの定義について言及した。

 念のため、この日本語版の元になっているマロット先生のテキストの最新版、

Malott, R., & Shane, J.T. (2016). Principles of Behavior: Seventh Edition. NY: Routledge.

を参照したところ、第12章の「Discrimination」の章の200頁のところに、
  • Discrimination training procedure:
    Reinforcing or punishing a response
    in the presence of one stimulus
    and extinguishing it
    or allowing it to recover
    in the presence of another stimulus.
  • Stimulus discrimination (stimulus control)
    The occurrence of a response more frequently
    in the presence of one stimulus
    than in the presence of another,
    usually as a result of a discrimination training procedure.
というように、日本語版と同一に定義されていることが確認できた。また、オペランダムについては、上掲書214頁のところに、
The S is associated with the opportunity for reinforcement.
The operandum provides the opportunity to respond.
という日本語版と同一の記述があった。
※なお、杉山ほか(1998)の『行動分析学入門』は、マロット先生のテキストの第3版をベースに日本語版として独自に作成したものと伺っているが、マロット先生のテキストでは第4版以降から第13章で刺激等価性の話題が取り上げられている。

 さて、昨日の日記及び上掲の英文の定義にあるように、弁別刺激とオペランダムは別物、区別する必要がある。とはいえ、もともと、刺激というのは環境の一部であり、環境全体と不可分につながっている。人間が「刺激」と呼ぶのは、そのうち、独立して操作可能な部分を取り出しているからにすぎず、操作可能な単位が行動に影響を与える要素と一致しているという保証は全くない。

 また、行動というのも連続的なものであって、完全体として最初から生活体に備わっているわけではない。Skinner(1953)はこの点について、
[行動の]連続的な特性を無視してしまうことが、行動理論において重大な困難の原因となってきた。...【中略】...行動をがっしりとした固定的な単位に分けているのはわれわれなのである。【翻訳書110頁、長谷川訳】
と指摘している。

 昨日の日記では、ピアノはオペランダムであって弁別刺激ではないと述べたが、これは、「ピアノを弾く」という行動機会を提供するオペランダムになっているという意味に過ぎない。じっさい、ある建物に10室の部屋があってそのうちの一室にピアノが置かれていたとする。また、いずれの部屋もドアが開いていたとする。この場合、ピアノという視覚刺激は、明らかに「ピアノのある部屋に入室する」という行動の弁別刺激として機能する。要するに、ピアノを弾くためにはまずはピアノのある部屋に入室し、ピアノの前に座り、フタをあけて鍵盤を叩くという一連の行動がある。なお、ピアノという視覚刺激は動機づけ要因としても機能する可能性がある。たまたまこの建物を訪れた人が、ピアノを見たことで急にピアノを弾きたくなったというような場合である。

 スキナーボックスのレバーの場合も、レバー押しの行動機会という点ではオペランダムであるが、レバーを押すためにはまずレバーの方向を向き、その場所に近づく必要がある。そのさいにはレバーは、接近行動の弁別刺激として機能している。

 さらに言えば、レバー押しという行動自体も刺激と密接に結びついて遂行される。レバーを押したり戻したりする時の力は、感覚刺激を手がかりとして調整される。我々が自動車のアクセルやブレーキを踏む場合も同様である。

 次回に続く。