じぶん更新日記1997年5月6日開設Copyright(C)長谷川芳典 |
【思ったこと】170414(金)関係フレーム理論をめぐる議論(10)時間的近接がもたらすもの(3) 随伴性テーブルと文脈 4月12日の日記で、2つの刺激の時間的近接性について述べた。このことに関連して少々脱線するが、刺激Aに時間的に近接して刺激Bが生じた(刺激Aの直後に刺激Bが出現した)からといって、刺激Aが刺激Bの前兆として有益な情報になりうるということは必ずしも保証されない。要するに、刺激Aの直後にBが起こる確率よりも、刺激Aが生じなかった時にBが起こる確率のほうが高ければ刺激Aの予測手がかりとしての利用価値は低いということである。 具体的には例えば、ある羊飼いの少年が「オオカミが来た!」と叫んで、実際にオオカミが出現した確率と、叫ばなかった時にオオカミが出現した確率を比較し、前者のほうが大きければ、その少年の叫び声には利用価値があるいっぽう、後者のほうが大きい時には、少年の叫び声とは無関係にオオカミ対策をとったほうが有効ということになる。 この問題は、古典的な信号検出理論の枠組みで検討されるほか、学習心理学の領域(行動分析学ばかりではなく、レスコーラ=ワグナーのモデルなど)でも広く検討されており、私自身も大学院生の頃、これに近い領域で実験的検討に取り組んだことがあった。 もっとも、「オオカミが来た!」という叫び声の有無と、オオカミ出現の有無によって構成される随伴性テーブルから条件つき確率を算出することについては、数学だけでは解決できない制約がある。というのは、条件つき確率を数え上げるためには、文脈を特定しなければならないからである。とりあえず、羊飼いの少年が「オオカミが出た!」と叫んだ回数と、その直後にオオカミが出現した回数、及び出現しなかった回数はカウントできるが、「直後」というのにどのくらいの時間的スパンを含めるのか、「出現した」といっても牧場のどの範囲までを観測対象にするのかによってその値は異なってくる。さらに、「オオカミが来た!」という叫び声を上げなかった回数というのは、原理的にカウントできない。あくまで、オオカミが出現した場合に、その直前に叫び声はあげていなかった回数としてカウントするほかはない。 学習心理学の実験場面では、刺激と刺激の出現確率をさまざまな条件に変更することができるが、それはあくまで実験室内の中の、実験セッションあるいは試行という文脈に限った中で算出される確率にすぎない。例えば、刺激Aが呈示されている条件でキーをつつくと1/10の確率で餌がもらえる一方、刺激Aが呈示されていない条件でキーをつつくと2/1の確率で餌がもらえたとする。この場合、刺激Aは、実験セッションの文脈の中では「餌が出にくい」手がかりとなる。しかし、実験室の外では全く餌がもらえないハトにとっては、刺激Aは、餌が出る可能性を示す手がかりとなる。 関係フレーム理論では、機能的文脈主義の立場がしばしば強調されているが、文脈による制御という考え方は上記の例にも当てはめられると思う。但し、無限に近い要因が関与し、実験的に統制できる範囲が限られていることを考えると、文脈の中身を詳細に同定することはきわめて難しい。むしろ、同じ個体、同じ環境、同じ前後関係のもとでは文脈が似ているであろうと想定し、その前提のもとで対処可能な方略をさぐることになるのかもしれない。 次回に続く。 |