【思ったこと】 170518(木)ボーム『行動主義を理解する』(9)実用主義(6)
昨日に続いて、
ボーム(著)森山哲美(訳)(2016).『行動主義を理解する―行動・文化・進化―』 二瓶社.
の話題。
第2章末の要約では方法論的行動主義と、ボームの言う徹底的行動主義が以下のように特徴づけられていた。【長谷川による要約・改変。英文は初版本からの引用のため、第二版に基づく翻訳とは一致しない部分もある。】
- 実在論の考えに対して、実用主義は、間接的に知られる実際の外界を仮定しない。実用主義は、私たちの経験の意味を理解する課題に重きを置く。私たちの身の回りで起こっていることを理解するのに役立つ疑問と解答に価値がある。
Pragma tism, in contrast, makes no assumption of an indirectly known real world out side. It focuses instead on the task of making sense of our experiences. Questions and answers that help us to understand what happens around us are useful.
- 外界が実際に存在するのかどうかといった疑問は、私たちの経験を理解する上でさして重要な問題とはなり得ないし、注目に値しない。絶対的な究極の真理など存在しない。むしろ私たちの経験が、概念によってどのくらい互いに結び付けられるのか、どのくらい体系化されて理解されるのか、という点に概念の真理はある。
Questions that can make no difference to our understanding, such as whether there is a real universe outside us, merit no attention. There is no absolute ultimate truth; rather the truth of a concept lies in how much of our experience it allows us to link together, organize, or comprehend.
- マッハは、私たちの経験を効果的に語ること、すなわちコミュニケーションは、説明と同じであると考えた。ある事象を親しみのある用語で語ることができる限り、その事象は説明されると彼は主張した。事象を親しみのある用語で語ることが記述である限りにおいて、説明は記述である。科学は、私たちの経験をより包括的に理解することができるような概念だけを発見する。
In Mach's view, speaking effectively about our experiences ― that is, communication ― was one and the same as explanation. He argued that insofar as we can talk about an event in familiar terms, the event is explained. To the extent that talking about events in familiar terms is called description, explanation and description are the same. Science discovers only concepts that render our experience more comprehensible.
- 方法論的行動主義は実在論に基づく。それに対して徹底的行動主義は、実用主義に基づく。徹底的行動主義は、内的世界と外的世界を二分する考えを行動の科学にとって有害であるとして認めない。その代わり徹底的行動主義は、ひとつの世界の中で行動に基づく科学を提案する。
- 方法論的行動主義者は、行動事象をできる限り機械論的に、できる限り生理学に近づけるようなやり方で記述しようとする。それに対して徹底的行動主義者は、行動を理解するのに役立ち、行動を節約的に語ることができるような記述的な用語を探す。行動の実用的な記述には、行動の目的と行動が生起するときの文脈が含まれる。徹底的行動主義者からすれば、記述的な用語によって、行動は説明され、また行動が何であるのかが定義される。
... the methodological behaviorist tries to describe behavioral events in terms as mechanical as possible, as close to physiology as possible. The radical behaviorist looks instead for descriptive terms that are useful for understanding behavior and economical for discussing behavior. Pragmatic descriptions of behavior include its ends and the context within which it occurs. To the radical behaviorist, descriptive terms both explain behavior and define what behavior is.
上記の中でやはり気になるのは、「行動の実用的な記述には、行動の目的と行動が生起するときの文脈が含まれる。/Pragmatic descriptions of behavior include its ends and the context within which it occurs.」という部分。但しいずれも、本書の後半部分で詳しく取り上げられているので、ここではメモだけにとどめておく。
もう1つは、昨日も述べたように、「徹底的行動主義は、ひとつの世界の中で行動に基づく科学を提案する」というところの「ひとつの世界」とは何かという問題である。実際には、生活体が環境と関わる「いま、ここ」の世界(直接的な強化随伴性に基づく世界)に加えて、言語行動がもたらすマインドワンダリングの世界がある。マインドワンダリングの世界を内観に基づいて記述することになってしまえばこれは行動主義とは言えないが、マインドワンダリングの起こる仕組みや文脈を行動のレベルで系統的に記述し、予測と影響に役立てられるのであればこれは二元論とは言えず、むしろ徹底的行動主義の本流を目ざしていると位置づけることもできるだろう。
次回に続く。
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