じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 2007年8月当時のモンゴル・ウランバートル。こちらに旅行記あり。


2019年2月11日(月)



【連載】

「ボルトとダシャ マンホールチルドレン20年の軌跡」(1)「現実をリアルに描くために、そのリアルさを強調するための舞台を提供する」ことの難しさ

 2月9日にNHKで放送された、

BS1スペシャル「ボルトとダシャ マンホールチルドレン20年の軌跡」

を録画再生で視た。

 モンゴル・ウランバートルのマンホールの中で生き抜く子どもとその後の様子は、私の知る限りでは過去3回にわたって放送されており、私も強い関心を持っていた。
  • 【1】1998年

    日曜スペシャル「マンホールチルドレン〜混迷するモンゴルからの報告〜」
    チャンネル:BS1
    放送日:2008年 3月22日(土)
    放送時間:午後10:00〜午後11:00(60分)
    番組内容:−飢え・寒さ・暴力・街をさまよう子供たち− −深夜の収容作戦−(1998年4月19日放送)
  • 【2】2004年

    BSドキュメンタリー「マンホールで大人になった」−再訪・厳寒のモンゴル−
    チャンネル:BShi
    放送日:2008年 3月12日(水)
    放送時間:午後8:00〜午後9:30(90分)
    番組内容:1998年社会主義崩壊後の混乱のなかで貧しくマンホールで暖をとって暮らしていた子どもたちのその後を2004年にたずねたドキュメンタリーシリーズの第二弾
  • 【3】2008年
    ハイビジョン特集「10年後のマンホールチルドレン」
    チャンネル:BShi
    放送日:2008年 3月13日(木)
    放送時間:午後8:00〜午後9:50(110分)
 3回の放送を通じて描かれていたのは今回放送のタイトルにもなっているボルト、ダシャという2人の男性と、オユナという女性であった。このうち2004年放送の「6年後」では明るい未来が開けたように見えたが、2008年の「10年後」はまことに悲惨。
  • ボルトが苦労してお金を貯めて建てた小さな家は、土地の登記がなされていなかったため追い出される。
  • ボルトは一時期、実母、実妹、オユナ、ダシャと同居しており、オユナとのあいだにナッサンという一女をもうけたが、オユナと実母との折り合いが悪く、実母・実妹を追い出してしまう。
  • その後、ボルトはオユナにも暴力をふるうようになり、オユナは娘を連れてダシャと共に別の場所に暮らすようになる。
  • ボルトは建設作業の職を失い、再びマンホール生活に戻った。
  • オユナのアルコール依存はますますひどくなり、ナッサンと共にダルハンの叔母の家に預けられることになった。ダシャは一人ウランバートルに戻り、オユナとナッサンに仕送りを続けることになった。
というような内容であり、視聴者からも「夢も希望もない終わり方だ。是非、続編を作り彼らが再生して行く姿を見たい」という声が寄せられていたという。

 今回の20年後の放送で、オユナが亡くなったことは残念であったが、ボルトとダシャは再び強い友情で結ばれ、それぞれ定職を得て、小さいながらも自分の家で安定した生活ができるようになり、希望が見える結末となった。




 このように放送内容はまことに感動的であったが、この種の取材ではどうしても、取材スタッフによる過剰な演出が気になるところである。2008年放送後にはこちらの方がいくつかの点を指摘しておられ、私も2009年5月25日およびその前後の日記で「過剰演出」に言及したことがある。

 今回も、
  • ダシャが、一時危篤になっていたという実母に会いに行く場面
  • ダシャが、子どもの小学校入学の際の出費に備えてボルトにお金を借りに行く場面
  • ボルトが、ナッサンのためにギターを買ってやったり、ウランバートルにやってきた時にデパートでイヤリングやスマホケースを買ってやる場面
などではスタッフがお金を出しているのではないかと思われるふしがあった。

 ま、何はともあれ、ダシャやボルトが、全くの厚意だけで取材に応じていたとは思えない。以前、BS20周年ベストとして、1998年と2004年の番組が放送された時には、その間のトークで、高橋太郎ディレクターは、
(マンホールの縄張り争いをしている中の)弱いグループは、(取材の)カメラがある時はいじめられない。そのことから付き合ってくれるようになり、信頼関係が築かれた。
と語っていたが、信頼関係だけで取材が続けられたのかどうかは疑問である。例えば、2010年放送で、ダシャとオユナが叔母の実家にナッサンを預けに行く際に座席に座っているシーンがあるが、あの座席は列車やバスではなく、どうみてもスタッフが特別に手配したワンボックスカーの後部座席であるように見えた。

 ま、そうは言っても、「いま何をしていますか?」という聞き取りだけでは番組構成は成り立たないであろうから、ある程度は、舞台を用意する必要もありそう。このあたり、脚本のあるドラマだったら何でも自由に設定できるのだが、「現実をリアルに描くために、そのリアルさを強調するための舞台を提供する」ことの難しさを感じさせる内容であった。