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5月18日の岡山は、午後を中心に強い風が吹き、最大瞬間風速18.1mを記録した。写真は、半田山植物園・睡蓮池に浮かぶバラの花びら。このほか、ブルーポピーも花びらの一部が散っていた。 |
【連載】 遺伝子の最新研究と心理学の将来(5)病気にならない特別なDNAと長寿遺伝子 昨日の続き。 第1集の後半では、トレジャーDNA探しの一環として、病気にならない特別なDNA探しの研究が紹介された。この点に関して、オックスフォード大学のスティーブン・フレンド(Stephen Friend)先生は、 私たちは今まで病気の原因となる遺伝子の変異ばかり探していました。でも本当は、病気にならない人が病気にならない理由をもっと研究するべきなのです。と説いておられた。なお、このスピーチはTEDのサイトの、 Stephen Friend: The hunt for "unexpected genetic heroes" で視聴することができる。 番組では病気にならないトレジャーDNAの持ち主の一例として、糖をためこむ働きをする物質SGLT2を持たないDNAを持たないパウラさんが紹介された。そこから、SGLT2阻害薬が開発され、糖尿病の治療に役立っているという。また、遺伝病の原因を持っているにもかかわらず発症していなかったり、HIVに感染しても発症しない人たちが持っているトレジャーDNAについて研究が進んでいるということが紹介された。 上記のスピーチにある「病気の原因ばかりを探すのではなく、病気にならない理由をもっと研究すべき」というのは大切な発想であると思う。同じことは苦悩についても言える。心理学では伝統的に「苦悩の原因をさぐりそれを無くす」ことに力を注いできたが、苦悩に陥らない人について、なでそうならないのかということにもっと目を向ける必要がある。その1つの流れはPositive psychologyの流れであり、また、「苦悩は無くさなければならない」という固定観念を根本から問い直すACTの発想につながっているように思われる。 「病気にならないDNA」とか「長寿遺伝子」に関する話題は以前より時々耳にしたことがある。ダビングDVDの保管庫を探してみたところ、 2010年1月23日(土)放送 「NHK サイエンスzero 最新科学が見つめる生と死(3)〜長寿遺伝子が見つかった!〜」 という録画番組が見つかった。 番組によれば、サーチュイン遺伝子の活性化により合成されるタンパク質、サーチュイン(Sirtuin)は、(DNAがまきつく)ヒストンとDNAの結合に作用し、ヒストンに付着したアセチル基によってDNAがちぎれやすくなる作用を防ぐことが明らかにされた。 番組によれば、酵母では、不等分裂により分裂を繰り返すうちに、老廃物がたまり、20回ほど分裂すると死ぬが、上記のサーチュインの働きによってDNAがちぎれにくくなるため、通常の酵母では平均22.0回の分裂で寿命を迎えるところ、サーチュイン活性化により28.8回まで寿命を延ばすことができることが示された。 哺乳類の場合は、サーチュインの働きは異なっており、心筋細胞のミトコンドリアから大量に発生する有害な活性酸素を消去する働きをしているという。これにより、心臓の老化を防ぎ、心筋梗塞になりにくい効果があるという。 もっとも、トレジャーDNAであれ、上述のサーチュイン遺伝子であれ、長寿という目的をもって装備されたわけではない。突然変異によって特殊な機能が備わり、それが結果的にある種の病気の発生を抑えているにすぎない。なので、そうした機能は、寿命を延ばす上で良い働きをするいっぽう、別の面では悪い働きをする恐れがある。じっさい、2010年の放送当時の話になるが、サーチュインを活性化させると、皮膚ガンの一種「メラノーマ」の転移を促進する恐れがあることも分かっているという話であった。 ま、このことに限らず、「○○は健康に良い」、「○○は長寿効果がある」などと宣伝されている高額な健康食品やサプリなどは、そもそも宣伝内容通りの効果が期待できるかどうか疑わしいことに加えて、健康増進の自然なバランスを崩し、想定外の副作用がもたらされる危険さえある。 どっちにしても、いまの平均寿命(2017年の日本人の平均寿命は女性が87.26歳、男性が81.09歳)を20年延ばす物質が発見されたからといって社会全体がより幸せになるという保証はない。むしろ、年金財政や医療保険制度が破綻して大混乱になる恐れもある。寿命延伸目的ではなく、むしろ、若い人たちの難病治療に役立つDNA探しに力を注ぐべきであろう。 次回に続く。 |