じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 岡山では5月18日から20日にかけて最大瞬間風速20mを超える強風が吹き荒れ、看板が倒れてけが人が出るなどの被害があった。3日にわたって強風が続くというのは岡山では珍しいことだ。
 天気図を見ると、日本の東海上に1032hPaの高気圧、中国東北地方に984hPaの低気圧があり、西高東低の冬型とは真逆に「東高西低」型になっており、高気圧の縁を時計回りに回る風が吹いたようである。

2019年5月20日(月)




【連載】

遺伝子の最新研究と心理学の将来(7)DNAメチル化/DNAスイッチonによる能力アップ

 昨日の続き。

 昨日も取り上げたように、第2集では、DNAメチル化の役割についての説明があったが、比喩的には納得できても、その働きの仕組を理解することは私には困難であった。ウィキペディアのリンク先の記述を要約抜粋すると、DNAメチル化は次のような役割を果たしているようである。
  • NAメチル化は、シトシンのピリミジン環の5位炭素原子あるいはアデニンのプリン環の6位窒素原子へのメチル基の付加反応である(シトシンとアデニンはDNAを構成する4種の塩基のうちの2種である)。この修飾は細胞分裂を経ても受け継がれる。【←と言われても何のことやらわからない。】
  • 通常DNAメチル化は、接合体形成の間に除去され、発生の間に続く細胞分裂を介して再建される。
  • DNAメチル化は高等生物において正常な発生と細胞の分化において極めて重要な役割を担っている。
  • DNAメチル化は、細胞が「自分がどこにいるのか」を記憶できるように安定的に遺伝子発現パターンを変化させたり、遺伝子発現を減少させたりする。
  • DNAメチル化は時間と共に宿主のゲノムに取り込まれたウイルスやその他の有害な要素の遺伝子の発現を抑制する。
  • DNAメチル化は、クロマチン構造の基礎を形作る。これによって、細胞は単一不変のDNA配列から多細胞生物に必要な無数の特徴を形成することができる。
  • DNAメチル化は、ほとんど全ての種類のがんの発達において極めて重要な役割を果たしている。

 ということで要約してみたが、今回の番組だけでは、雑学レベル程度の理解に達するのもなかなか困難であった。

 番組では続いて、DNAスイッチを切り替える研究が紹介された。例として、
  1. ランニングなどの運動をすると脳の中のDNAメチル化酵素が減って、脳の神経細胞を成長させる遺伝子のスイッチがonになり、記憶力がアップする可能性がある。
  2. 音楽をたくさん聴くと、「聴覚に関わる神経伝達物質」を作るDNAスイッチがonになり、音色などを聞き分ける能力がアップする可能性がある。
 以上に関して、山中先生は、
昔から生まれか育ちかってよく言いますけども、やはり先天的なものだけではいろんな才能というものは説明できない。生まれてからの努力が大事だっていうのはDNAスイッチが関与している可能性がいま少しずつ示唆されています。
とコメントしておられた。

 もっとも、何らかの努力が何らかの能力をアップさせるということは、DNAスイッチを持ち出さなくてもすでに経験的に知られていることである。
 上記1.のランニングの効用は、以前、山中先生御自身が毎日、京大周辺をジョギングしているという番組を拝見したことがあったが、私の世代ではそれよりずっと昔から久保田競先生の『ランニングと脳』、『頭をよくするランニング』といったお話を拝聴したことがある。DNAスイッチの切り替えができてもできなくても、総合的にみて、ランニングが「脳力」アップにプラスとなるのであれば、それを良しと考える人は続けていかれればよいのではないかと思う。

 上記2.についても

●音楽をたくさん聴くと、「聴覚に関わる神経伝達物質」を作るDNAスイッチがonになり、音色などを聞き分ける能力がアップする可能性がある。

という文言の中の下線部を削除して、

●音楽をたくさん聴くと、音色などを聞き分ける能力がアップする可能性がある。

と書き換えたところで、実践場面で影響が出るとは思えない。弁別訓練の原理から言っても、いろいろな音楽を聴いた人のほうが、聴いていない人よりも音色の弁別能力が高まるのは必然であり、DNAスイッチのオンオフを持ち出すまでもないことだ。

 同じような話は、だいぶ昔に流行した「右脳、左脳」議論でもあった。
  • 音楽をたくさん聴くと ★右脳が活性化されて★ 音楽能力がアップする。
  • 論説文をたくさん読むと ★左脳が活性化されて★ 論理的思考力がアップする。
などと、なんでもかんでも脳の活性化にこじつける論調があったが、「○○すると、××がアップする」だけで効果が確認されているのであれば、それが右脳の活性化であれ、左脳の活性化であれ、あるいは肝臓の活性化であれ、つま先の活性化であれ、何ら変わりはなく、上掲の「★___★」冗長な修飾にすぎないと言ってよいだろう。

 もしDNAスイッチの知見が有用であるとするなら、例えば、
  • これまで「音楽をたくさん聴く」ことは音色の聞き分け能力のアップにつながることが経験的に知られていたが、DNAスイッチの新たな知見により、スイッチをonにするためには、何でもかんでも聴けばよいのではなく、○○のジャンルの音楽を聴くことだけが有用であることが分かった。
  • ランニングは記憶力のアップにつながることが経験的に知られていたが、DNAスイッチの新たな知見により、ただ走ればよいというのではなく、毎日○○分、××というスピードで走った場合に限って有用であることが分かった。
というように、これまでの経験的事実の精緻化、さらなる有効化に貢献するような具体的提言をできる場合に限られるように思う。

 次回に続く。