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文学部中庭のオニユリ。八重咲き種。オニユリはムカゴができるので、この場所でさらに殖える可能性あり。 |
【連載】 行動分析学用語(第3期分)についての隠居人的独り言(8)けったいな名称の強化スケジュール 7月6日に続いて、行動分析学用語についての独り言。今回はリストの中で最も頻繁に登場していると思われる強化スケジュールについて取り上げることにしたい。 言うまでもなく、強化スケジュールは、今から60年以上も前に、 Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of reinforcement. によって体系的に研究された。その意義については長谷川版講義録でも取り上げたことがあった。ちなみに、私自身の卒論もハトを被験体とした並列強化スケジュールに関する実験研究であった。 しかし、その後、さまざまなスケジュールが考案され、パッと見ただけでは何のスケジュールだか説明できないようなけったいな名称も出てきた。リストから目についたものをざっと拾ってみると以下のようになるが、これらをしっかりと説明できる人は、行動分析学者の中でも一部に限られているのではないかと思われる。少なくとも、公認心理師の試験問題としては難問・奇問になるのではないかと思う。
元の話題に戻るが、 Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of reinforcement. という大著は、「1回1回の反応とその結果」という微視的な随伴性ではなく、反応と強化のパターンをより巨視的な視点から体系的に分析したという点で大きな意義がある。しかし、彼らの考案した諸スケジュールだけで、強化子(好子)の配合のあらゆる場合が尽くされたというわけではない。長谷川版でも指摘したように、VIとかVRといったスケジュールは、コンピュータが利用できない1950年当時の実験装置でも比較的容易に分析を行うことができた。今の時代であれば、日常生活により密着したタイプの強化スケジュールを、パソコン1台で制御することができる。そういう意味では「けったい」な呼称のスケジュールが次々と登場すること自体は必然であるとも言える。 なお、これは、刺激を提示する実験一般と同様であるが、強化スケジュールの研究では、
...例えば、非常にのんびりとしたハトがいて、2分間に1回しかキーをつつかなかったとしましょう。このハトに、「FI1分」という強化スケジュールを実施したとしても、実際の行動は2分間に1回しか起こらないので、実際には「FI 2分」の強化スケジュールを実施した場合と同じ実験操作を行っていることになります。強化スケジュールのパラメータや数学的表現がどんなに複雑怪奇になったとしても、実験参加者や被験体動物は、それなりに適応的に反応することはできる。但しそれは、実験者(研究者)が設定したパラメータ通りに行動しているというわけではない。例えば、実験者が指数関数やルートを使った複雑な数学式に基づいて強化率を変動させたとしても、被験体はそういう数式自体ではなく、単調な増加や減少だけに影響されて反応するという可能性がある。刺激提示の実験で、被験体に「十」という図形を見せても、「十」の下の部分の縦線「|」だけに反応している可能性があるのと同様である。極論すれば、強化スケジュールの研究が操作する変数はあくまで仮のものであり、実際に観察記録される行動を見なければ真に行動を制御している変数は同定できないと言えるかもしれない。 次回に続く。 |