じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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11月12日の朝はよく晴れ、月齢14.7の「ほぼ満月」が西の空に沈む様子を眺めることができた(今回の満月は11月12日の22時34分)。
 なお、11月12日は、水星の日面経過が起こるが日本では見られない。いっぽう水星食を含む惑星食についてはこちらから一覧できるが、私の生きているあいだには水星食は見られず、それ以外の惑星食も当分は、白昼の現象、もしくは日の入り後となるようである。【もっとも、食の最中は月しか見えないので何の面白みがない。食の直前か直後のほうが滅多に見られない光景となる。】

2019年11月11日(月)



【連載】『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(5)音の聞き分け

 11月10日に続いて、

 針生先生の『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』の感想。

 第2章の後半では、「L(エル)」と「R(アール)」の聞き分けについて興味深い話題が取り上げられていた。周知のように、日本人は、「LALILULELO」と「RARIRURERO」という音の区別が困難で、どちらも「らりるれろ」のように聞こえてしまう。これについては、
  1. 赤ちゃんは最初はLとRを聞き分けていたが、日本人の赤ちゃんの場合は日本語で区別されていないため、しだいに聞き分けられなくなる。
  2. 赤ちゃんはもともとはLとRの聞き分けができないが、LとRを区別する言語環境に置かれるとしだいに鍛えられてうまく区別できるようになる。
 このことを調べるには、すでに紹介されていた「馴化‐脱馴化法」が使えるがこれは単に、区別ができているかどうかということしか確認できない。そこでさらに「条件づけ振り向き法」という方法により詳細な検討が行われた。実際に紹介されていたのは、まずは「L」と「R」の区別ではなく、ヒンディー語やセイリッシュ語の特殊な発音の区別についての実験であった(これらの音は英語では区別されていない)。それによると、生後半年くらいの時はちゃんと区別できていたが、英語環境で育つうちに12カ月頃になると殆ど区別できなくなってしまうという結果となった。

 いっぽう、フィリピン語で区別されている2つの「ナ」の音については、生後6カ月の赤ちゃんは区別できなかったものの、フィリピン語環境で育つと12カ月頃には聞き分けができるようになるという結果もあった。

 上記の1.の「当初は聞き分けができたが育つうちに区別できなくなる」という現象は行動分析学で言えば「般化」に相当している。いっぽう、当初は聞き分け困難であったが訓練により聞き分けできるようになるというのは「弁別」に相当している。例えば、交通信号機の「青」信号は一定の波長の範囲内であれば、電灯式でもLEDでもみな同じ「青緑」に見える。これは、青か緑かといった区別をする必要が無いからである。いっぽう、試薬を使って検査したり、画家が絵の具を混ぜ合わせたりする時、あるいは草木染めや陶器の彩色を行うような場合は、微妙な色の違いに注意を向ける必要が出てくる。そういう環境にあれば、青と緑は多種多様に区別されるであろう。

 以上、本書では「聞き分け」の問題が扱われてきたが、視覚言語、とりわけ文字の「読み分け」もまた重要ではないかと思われる。例えば、いまここに記している漢字や平仮名を大人になってから学習するのはかなり難しいと言われる。じっさい、平仮名には、「さ」と「き」、「は」と「ほ」、「め」と「ぬ」、「る」と「ろ」というように形の似た文字がある。カタカナの「ク」と「ワ」、「ソ」と「ン」などはもっと分かりにくい。漢字学習はさらに大変で、日本語を流ちょうに話す外国人でも、非漢字圏出身の人では漢字の読み書きはなかなか難しい。

 不定期ながら次回に続く。