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各種報道によれば、東京オリンピックのマラソンと競歩の札幌開催に向け、大会組織委員会と地元の実務者による2回目の会議が行われ、マラソンと競歩のコースは大通公園を発着点にすることが了承された。コースや日程については、引き続き協議を進めるとのこと。
余計なお節介だが、私がぜひコースとしてオススメしたいのが、モエレ沼公園である。大通公園からは片道10km、広大な平坦な土地に巨大なオブジェが作られ、札幌イメージアップの効果は絶大。 |
【連載】『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(10)ガバガイ問題 11月15日に続いて、 針生先生の『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』の感想。 第3章105ページからは、「ガバガイ問題(the Gavagai problem) 」が取り上げられていた。この元ネタはネットでも閲覧できる。英語を話さないガイド【あなたの母語を知らないという意味】とサファリを観光しているとする。突然、大きな茶色のウサギがあなたから少し離れた畑を横切って走ったとする。 ガイドはその動物を指さして「ガバガイ(ガヴァガイ)!」と言ったとする。通常、ガイドが発声した「ガバガイ!」は現地語でウサギのことだと解釈される。しかしそれが、ウサギ一般の呼称なのか、ウサギの中の特定の種類を指すのか、あるいは、茶色のことなのか、「あっ、何かが走っている」という意味なのか、は断定できない。 1歳児がモノの名前を覚える場合でも、日常一般の使われ方に比べて、その適用範囲が広すぎたり狭すぎたりすることがある。特定の車だけを「ブーブ」としか呼ばない場合もあるし、散歩中に見かけた動物を何でも「ワンワン」と呼ぶ場合もある。そう言えば、私のところでも、孫の一人が鉄塔に興味を持っている。私から見ればテレビの電波塔も高圧送電用の鉄塔もみな鉄塔と呼べるように思われるのだが、その孫は独自の分類をしており、私が電波塔を指さして「あそこに鉄塔があるよ」と言うと「あれは鉄塔じゃない」と答えたりしている。 こういうカテゴリー分けの不一致は、もっと大きくなってからでも起こりうる。例えば、「動物の名前に限定」というルールを設けてしりとりゲームをするような場合、ある人は「ケモノ」に限定し鳥や魚は動物ではないと主張する。微生物までを動物に含めるかどうかはさらに意見が分かれることだろう。 本書109ページでは、さらに、リンゴとヒツジの写真を見せて「これは?」と尋ねられた時になんと答えるか?という話題が取り上げられていた。ちなみに、ここでは説明の必要上、「リンゴとヒツジの写真」と述べたが、実際には「リンゴ」とか「ヒツジ」といった言葉は使われず、単に写真のみが提示されていた。しかし、多くの人はやはり「リンゴ」の写真を見た時には「リンゴ」と答える。「フジ」や「紅玉」(←リンゴの品種)で答えたり、「果物」と答える人は少ない。「ヒツジ」の写真の場合も、多くの人は「ヒツジ」と答えるいっぽう、「メリノ」(←ヒツジの品種)と答えたり、「ケモノ」、「草食動物」、「哺乳類」と答える人は少ない。このように、日常の会話レベルでは、モノの名前を尋ねられた時には中間レベルのカテゴリーで答えることが「常識」となっている。子どももいずれその「常識」に追いついていく、ということでさらに説明が続いていた。 ここまでの内容について私の感想を述べさせていただくが、ガバガイ問題も、リンゴとヒツジの話題も、その会話が交わされた時の文脈に大きく左右されているように思う。 サファリ中にガイドが喋る言葉は、まずは、その動物の名前である。その場合の呼称は、その場所でよく見られる特定種類に対する呼称が一般的である。 リンゴやヒツジの場合も、そこで何が尋ねられているのかは文脈に依存している。リンゴの栽培農家の人たちが果樹園で今後の計画について協議しているような場面では、これは何?に対する答えは品種名で答えるのが当然だろう(リンゴの果樹園で、これ何?に対して「リンゴ」と答えたら笑われてしまう。) いっぽう、果物と野菜を見分けるクイズ会場でリンゴの写真を見せられたという文脈では、当然「果物」と答えるのが正解となる。ヒツジの場合も同様で、放牧されている動物がヒツジかヤギか見分けがつかない時には「ヒツジ」と答えるだろうが、ヒツジばかり飼っている牧場で「これ何?」と尋ねられた時には当然、ヒツジの品種で答えるだろう。 要するに、モノの名前を正確に答えるためには、単語を覚えるというだけでなく、どういう文脈でその質問がなされているのかを把握する力が必要になるということだ。 不定期ながら次回に続く。 |