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【連載】又吉直樹のヘウレーカ!「不便ってそんなに悪いもの?」(2)不便益とは何か? 昨日に続いて、7月29日初回放 「又吉直樹のヘウレーカ!「不便ってそんなに悪いもの?」 についての感想と考察。 番組の始まりのあたりで、不便益の神髄について簡単な説明があった。
不便益の定義については、不便益システム研究所の8月30日付けのツイートで、 不便益の「不便」とは手間がかかることを意味します.一般的な意味の「都合が悪いこと」「役に立たないこと」などの意味ではなく,狭義の定義となっているのでご注意ください!身体的に手間がかかること(手足を動かす),もしくは認知的に手間がかかること(頭を使う)の『不便』です.という誤解を避けるための書き込みがあった。 ここからは私の感想になるが、人と道具、あるいはもっと一般的に、動物と環境事象とのかかわりは、行動分析学の最も基本的な研究対象でもある。そういう立場から言えば、オペラント条件づけの知見が生かされていないことはまことに残念であった。 ところで、ハトに、餌を獲得する方法として、手間をかけて手に入れる方法と、手間をかけずに手に入れる方法の2通りの選択肢を与えたらどうなるだろうか。これは、並列強化スケジュールとして再現することができる。例えば、2つのキーがあり、このうちキーAは5回つつけば餌が出る。いっぽうキーBは20回つつかないと餌が出てこない。これは、FR5FR20という並列スケジュールになるが、おそらくハトはキーAのほうだけをつつくようになるだろう。要するに、ハトは手間のかからない選択肢を選んだということになる【なおこのケースではマッチング法則は成り立たない】。 同じことは、ネズミのレバー押しでにも当てはまる。またゴールまでの長さの異なるY型迷路(どちらを進んでも、ゴールでは同じ量の餌が得られる)にネズミを入れれば、、ネズミは長さの短いほうのゴールを選ぶようになるだろう。 こうして見てくると、動物でも、手間のかからない選択肢を選ぶという基本的な傾向があるようには思われる。しかし、これは、食餌制限下での動物の行動であるかもしれない。上記のような実験環境に置かれた動物たちは、同じ時間内に少しでも多くの餌を獲得しようとするため、結果として手間のかからない選択肢のほうを選んでいるだけかもしれない。 いっぽう、動物園で飼育されている動物たちは、何もしなくても毎日、充分な量の餌を与えられている。しかし、そういう飽食環境は必ずしも動物たちのQOLを保っているとは言えない。一部の動物園では、手間をかけないと餌を獲得できないような仕掛けを作り、飼育動物のQOLを向上させているという ニューギニアに棲むチャイロニワシドリのオスは、メスをおびき寄せるために小屋を作ったり、念入りに飾り付けたりすることで知られている。このように、特定の生育環境のもとでは、手間をかける行動のほうが有利に働く場合もあるようだ。 もとの人間の話題に戻るが、何でもオートマチック化してしまうことは、「行動し、強化される」という人間の最も基本的な権利を奪うことにも繋がりかねない。このことはすでにスキナーの『罰なき社会』で指摘されている。 本題の「不便益」からは少し脱線するが、何でもかんでもスマホに頼るという生活はどうかなあと、最近思うことがある。最新の「体調管理アプリ」には、日々の活動量、血圧、体温など様々な数値をもとに、体調の異常の兆候を的確に知らせてくれる機能があると聞いているが、おいおい、自分の体調ぐらい自分で分からないのか? からだの異状を自分で感じ取れる自前センサーをもっと磨いておいたらどうか、という気がしないでもない。ま、どっちにせよ、スマホを使わない私には無縁の世界であるが。 次回に続く。 |