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【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(15)セッティング事象とは何か?(1) 9月25日の続き。 前回まで、1999年に日本行動分析学会第17回年次大会(北海道医療大学)で行われた、 ●「動機づけ」の行動分析:確立操作の概念の再検討と応用可能性 というシンポのうち、長谷川の話題提供について回想してきたが、このシンポでは、私以外に、園山先生と大河内先生からの話題提供があった【抄録の27〜28頁参照】。残念ながら、当時、話題提供に基づいてどのような議論が行われたのかは記憶に残っていないが、園山先生の抄録(27頁)で言及されていた「状況事象(setting events)」については、その後も継続的に議論が行われているように見えた。園山先生は、2年後の第19回大会(西南女学院大学)でも、「挑戦的行動に対する行動分析学的援助方略の概要」というご発表の中でこの要因に言及されておられた。 この「状況事象」は「セッティング事象」とも訳されているが、このキーワードで検索すると、なんと北海道医療大学で年次大会が行われたのと同じ年の1999年に、 武藤崇 (1999).「セッテイング事象」の概念分析一機能的文脈主義の観点から一. 心身障害学研究, 23, 1313-146. という論文が刊行されていることが分かった。この論文はつくばリポジトリから無料で閲覧できる。 ランダムハウス英語辞典によれば「setting events」の「setting」には「周囲の状態,環境,背景,生活環境」という意味があり、「setting events」の訳語として園山先生の「状況事象」、そのほか、「背景事象」、「生活環境事象」、「周辺事象」といった訳語を与えればイメージしやすくなるように思うのだが、その後、「セッティング事象」という訳語の使用が定着していったようである。なお行動分析学用語基本用語のリストでは「セッティング事象」が推奨1、「設定事象」が推奨2として推奨されたようだ。しかし、確立操作のほか、弁別刺激、オペランダム、さらには実験条件・手続などもすべて「設定」されていることから、「設定事象」という訳語ではさらに誤解をもたらしそうな気もする。 SNS経由の情報によれば、今回(2020年)のシンポでも、田中善大先生の話題提供で、セッティング事象や確立操作の話題提供が行われたとのことである。伝え聞いた話によれば、 Nosik & Carr (2015). On the Distinction Between the Motivating Operation and Setting Event Concepts. Behavior Analyst, 38, 219-223.【こちらから無料で閲覧可能】 という論文で、確立操作(ここでは「動機づけ操作(MO)」)とセッティング事象の区別について論じられているという。論文をざっと拝見したが、その中の図1によれば、セッティング事象という用語を含んだ論文・専門書は1982年頃からほぼ同じペースで漸増しており、いっぽう、MOを含む論文・専門書は2001年頃から増加率が増え、セッティング事象を上回るスピードで増加を続けているように見て取れる。 もっとも上記の比較は全体的な傾向を示しているだけであり、分野によっては、例えば教育などの実践現場では一貫して「セッティング事象」が多用されている場合もあるらしい。そもそも行動分析学といっても、スキナー由来の徹底的行動主義ばかりではなく、私が大学院生の頃は特にビジュー(Bijou)の影響もかなり浸透しており、また、イェール学派の影響も相当にあり、実践場面ともなれば、理論的な純粋性よりも実践的な有用性や、当事者や関係者への素朴な分かりやすさも優先されるであろうから、セッティング事象という枠組みで取り組まれることも大いにありとは思う。 不定期ながら次回に続く。 |