じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 ウォーキング中にカマキリを見つけた。最近、いろいろな生物の顔を接写しているが、カマキリは人を怖がらないので容易に撮影できる。

2020年10月19日(月)



【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(27)セッティング事象とは何か?(13)機能的文脈主義からの概念分析(3)言語構成物の4つの次元

 10月16日に続いて、

武藤崇 (1999).「セッテイング事象」の概念分析一機能的文脈主義の観点から一. 心身障害学研究, 23, 1313-146.

についての感想。なおこの論文はつくばリポジトリから無料で閲覧できる。

 武藤(1999)は、総括部分で、まず言語構成物の次元について論じておられるが【139頁〜】、この捉え方は、セッティング事象概念ばかりでなく、三項随伴性か四項随伴性か、さらには、動機づけ操作(MO)と確立操作(EO)をめぐる議論などについてもすべて適用できる考え方と言えそうだ。

 機能的文脈主義から見れば、科学的な「真理」というのは、「当該の行動に対して『予測と影響』を与えるような言語構成物」を意味する【プラグマティズムに基づく真理基準】。この連載で前回までに引用してきたように、セッティング事象という概念に基づいた実証研究は、ある程度、この基準を満たしていることから、いっけん、十分に有用であるように思われる。しかし、Leigland(1984)によれば、セッティング事象という概念は、形態的定義であり、かつ従来の他の分析用語との機能的な関係が不明確である[]という点で、分析用語は導入できないと論じている。
]原文では、

.....the term "setting events" with great care primarily because the functional nature of the term is unclear. ..... no particular controlling relation is identified with the term. Instead, the term appears to be characterized in terms of topographical features of environmental variables, such as complexity, temporal delay of effects, presence/absence-of-object, and so on. The functional relations that are subsumed by the term include what may be complex or conditional discriminative stimuli, deprivation/satiation variables, and perhaps others left unspecified.
ここで論じられている点は、9月11日の日記ほかで述べた、手続段階と理論段階の用語体系にも関連している。セッティング事象自体は、例えば「交通渋滞に巻き込まれて○○分かかった」「室内に花を飾った」というように手続段階の用語体系で記述することができるが、それらの事象の何が行動に影響を与えたのかは定かではない。なので、事例の報告自体は真実であり、当事者の行動に影響し、かつ、ある程度先までの予測や影響を可能にするかもしれないが、別のケースに応用できるかどうかは保証されない。けっきょく、「これが効きました」、「これも効きます」といった事例の列挙に終わってしまう。そういう意味では、「他の分析用語との機能的な関係」を明確にすることは重要ではないかと思われる。

 武藤(1999)は、さらに、Hayes (1991)を引用し、言語的構成物には4つの次元があると論じている。

Hayes, S. C. (1991). The limits of technological talk. Journal of Applied Behavior Analysis, 24, 417-420.

 上掲の論文は熟読を要するところであるが、武藤(1999)の要約に頼ると以下のような骨子となっている【長谷川のほうで改変あり】
  1. 正確さ (precision):ある事象に適用される言語構成物の数に関連する次元
    Precision has to do with the number of alternative verbal constructions that can be made about a given event.
  2. 広がり (scope):当該の言語的構成物によって問われうる事象の数に関連する次元
    Scope has to do with the number of events that can be encompassed by a given verbal construction.
  3. 構成(organization):言語構成物の当該セット間の系統牲と首尾一貫性の程度の次元
    Organization refers to the degree of systematization and coherence of given sets of verbal constructions.
  4. 深さ (depth):ある分析のレベル(例えば心理学的なレベル)での構成物とその他の分析のレベル(例えば人類学的なレベル)での構成物との間の首尾一貫性の程度
    Depth refers to the degree to which constructions at one level ofanalysis (e.g., the psychological level) cohere with constructions at other levels (e.g., the anthropological or genetic level).
Hayes(1991)は、1.のレベルの高さは重要であるが、2.〜4.のレベルが低いと、科学的な言説の消費者に対する有用性を制限してしまうとした。【原文は、Although precision is important, poor scope, depth, and organization also limit the usefulness of scientific talk for its consumers.

 不定期ながら次回に続く。