じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 新型コロナの影響もあって、毎日、NHKオンラインから岡山地域のニュースを見ているが、1月2日の昼前、その中で、

大原実術間が元日に開館

という見出しのニュースが流れていた。「実術間」は明らかに「美術館」の間違いであり、夕刻には、「美術館」に訂正されていた。

 私が疑問に思ったのは、「びじゅつかん」がなぜ「実術間」に誤変換されたのかということである。外国人でない限り、「美術館」を「みじゅつかん」と読む人は居ないだろうし、かりに「みじゅつかん」で漢字変換しても、私のATOKでは「見術観」が第一候補となるいっぽう、「実術間」は変換候補には出てこない。

 どっちにしても、最近のワープロソフトでは、日本語に無い文字列に変換された時は、アンダーラインなどで誤変換が自動的に指摘されるしくみになっているので、ネット上に誤変換のまま表示されるということはきわめて起こりにくいのではないかと思う。謎は深まるばかりだ。


2021年1月3日(日)




【連載】60年前の童話全集は孫たちの役に立つか?(5)『カーグラスの城』

 1カ月も間が空いてしまったが、12月4日に続いて童話全集の話題。

 前回はイギリス童話集、その前にはドイツ童話集を取り上げたところであったが、『世界童話文学全集』(講談社)の中では、フランス童話集は読んだことが無かった。『世界童話文学全集』各冊の内容紹介には、フランス童話集は、
ボーモン夫人、ドーノワ夫人などの古典的作品から、新しいヴィルドラックまで....
と書かれてあったが、『美女と野獣』以外にはこれといった作品は浮かんでこなかった。

 もっとも、フランスを舞台にした童話の中には、私のお気に入りの1つ、『カーグラスの城』が含まれていた。

 この童話はアンドルー・ラング世界童話集の中の、ふじいろの童話集(Lilac Fairy Book 1910年)に収納されていたものであったが、私の手元にある東京創元社発行の日本語訳(1958年発行)では、なぜか『ラング世界童話全集1 みどりいろの童話集』のいちばん先頭に収納されていた。なお、ウィキペディアの注釈によれば、東京創元社の2009年版では『ふじいろの童話集』のほうに収納されており、「カーグラス」ではなく「ケルグラスの城」と表記されているようだ。

 「カーグラスの城」の舞台が現在のどこの国であるのかは物語の冒頭では記されていなかったが、終わりのところには「(フランス)」という表示があった。また、物語の終わりのあたりに、ブルターニュ(作品では「ブルタニー」と表記)が舞台であったことが書かれており、ブルターニュ公国を舞台にした物語であると推測できる。

 英語タイトル「The Castle of Kerglas」でネットで検索したところ、まことにありがたいことに、Gutenberg(日本の青空文庫に相当)に、英語版が無料公開されており、こちらから閲覧できることが分かった。孫たちの英語の勉強にも役立ちそうである。
追記]英語の朗読もこちらにあり。




 さて、ここからは作品の中身に入るが、物語自体は主人公ペロニックの冒険談であり、小学生だった私をワクワクさせる内容であった。挿絵は、ペロニックがコリガンと呼ばれる妖精と対峙する1シーンのみであったが、挿絵が無かったことでかえって想像力がかき立てられた。

 もっともいま読み直してみると、この冒険談は、ペロニックがカーグラスの城主ロージャーを殺して、水入れと槍を奪い取るという内容になっている。ロージャーが悪人であるとはどこにも書かれていないことからみて、要するに、ペロニックは強盗殺人犯ということになってしまいそうだ。もっとも、最後のところで、ナントの町をフランス軍から守ったと書かれており、ナントの人々にとっては英雄ということになりそうである。ま、おそらく物語の描かれていた時代は、要するに、戦いに勝つことが正義であり、力の強い者が他の王国の宝物を奪い取ったり、他の王国を武力で征服すること自体は当然のこととして受け止められていたのであろう。

 あと、気になる点が2つほどあった。まず主人公ペロニックの設定だが、冒頭のところで、
ペロニックは、まずしい、おろかな子どもで、やどなしでした。
と書かれてあるものの、じっさいにはペロニックはさまざまな知恵を働かせて冒険を成し遂げており、決して「おろかな子ども」ではない。なぜあえて「おろか」という表現を使っているのかよく分からないが、上掲の英語版でも、この部分は、
Peronnik was a poor idiot who belonged to nobody,...
というように「idiot」が使われていた。原作者は何を意図していたのだろうか。

 もう1つ、人種差別に相当しそうな表現として、「黒んぼう」というのがあった。ウィキペディアでは、「黒人(広義で褐色人種も)や色の黒い人のこと、あるいはそれらに対する差別用語」とされている。なお、英語版のほうでは、「black man」と表記されていた。

 以上、いくつか気になる点はあるものの、冒険譚としては第一級であり、孫たちにはぜひとも読んで貰いたい作品ではある。英語の勉強にも役立ちそう。

 不定期ながら次回に続く。