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【連載】「刺激、操作、機能、条件、要因、文脈」をどう区別するか?(48)杉山尚子先生の講演(13)佐藤方哉先生の研究(7) 手続的定義と機能的定義 昨日に続いて、 ●佐藤方哉 (2007).見本合わせは条件性弁別であろうか?―概念分析―. 帝京大学心理学紀要, 11, 1-8. の話題。 話が前後するが、佐藤先生は、
弁別刺激の手続的定義としては、Ferster & Skinner(1957)の「その刺激が提示されている時には反応が強化され、提示されていない時には反応は強化されない」という、強化の手続に基づく定義が引用されていた。じっさい、継時弁別課題は、SDのもとで反応すれば強化され、SDのもとでは強化されないので、この定義に一致する。 いっぽう、弁別刺激の機能的定義としては、Domjan(2003)の、「強化されるかされないかという手がかり【原文はsignal】となることでオペラント行動【原文は道具的行動】を制御するような刺激」が引用されていた。じっさい、同時弁別課題では、複数の選択肢を特徴づける刺激(色、形、位置など)が「強化されるか、されないか」という手がかりになっている。 ここまでのところでは、手続的定義と機能的定義の区別はイマイチ分からないようでもあるし、継時弁別を機能的に定義したり、同時弁別を手続的に定義することも可能であるように思えるが、佐藤先生は次の段落で、これらを以下のように明確にしておられる。 心理学において刺激という概念を用いる際には、物理的刺激と機能的刺激とを明確に区別しなければならない。物理的刺激とは客観的に測定することのできる刺激であり、一方、機能的刺激とは有機体の行動の何らかの側面を制御することのできる刺激である。機能的刺激は、有機体の行動に対する効果をみることなしには特定することはできない。この区別に基づけば、上掲の「その刺激が提示されている時には反応が強化され、提示されていない時には反応は強化されない」という定義は、物理的に測定可能が提示されるかどうかに基づいており、手続的定義となる。いっぽう、Domjanの「強化されるかされないかという手がかりとなることでオペラント行動を制御するような刺激」という定義は、「行動を制御することのできる刺激」として定義されていることから、明らかに機能的定義である。またじっさい、このような形で弁別刺激を定義するには、行動への効果を確認する必要がある。有名なレイノルズの実験においても、何が弁別刺激になっていたのかは、機能的定義により区別される。 今回の杉山先生の講演の中でも言及されていたと思うが、S+とS-という記号は、手続段階で使用される用語である。いっぽう、佐藤先生が再定義されたSDとSΔは機能的に定義された用語ということになる。 弁別刺激とは、オペラント行動の自発を制御する先行刺激である(Discriminative stimulus is an antecedent stimulus that controls the emission of operant behavior.) 以上を踏まえた上で、再度、杉山先生の講演を視聴していただければ、より理解が深まるのではないかと思う。 なお、以上までのところでは「継時弁別は手続的定義、同時弁別は機能的定義」というように読み取れる部分があるが、継時弁別であっても機能的に定義することはできるように思う。例えば飲食店の入口に「営業中」の札がかけられているときには食事が可能であり、札がかけられていない時には入店しても食事ができなかったとする。これは手続的定義である。しかし、例えば日本語の分からない外国人が、「営業中」の札の時に入店して食事、看板がない時に入店して食事できないという経験を繰り返すことで「営業中」の札の時だけ入店するようになることが十分に観察されたとすれば、「営業中の札は弁別刺激である」と機能的に定義されたことがある。 ちなみに、飲食店街を歩いていて、「営業中」の札のかかっていないお店を候補から外し、札のかかったお店を選ぶという行動は、継時弁別ではなく同時弁別となる。 不定期ながら、次回に続く。 |