じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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生協食堂前に駐められている自転車のカゴの中を漁るカラス。↓に関連記事あり。

2021年3月6日(土)



【連載】サイエンスZERO「“羽毛のある類人猿” カラス 驚異の知力に迫る」その2

 3月4日に続いて、NHKの「サイエンスZERO」:

「“羽毛のある類人猿” カラス 驚異の知力に迫る」

の話題。

 前回も記したように、番組では、カラス研究の権威、杉田昭栄先生が登場され、いくつかの行動実験が紹介されていた。
  1. 覆いをかぶせた2個の小さな容器がある。覆いにはAまたはBの顔写真がプリントされている。そのうちのAの容器には餌を入れておくと、カラスは、そのうちAで覆われた容器のみをつつくようになる。
  2. 覆いをかぶせた2個の小さな容器がある。覆いには、同じ形の模様がいくつかプリントされている。模様の数が多いほうの容器に餌をいれておくと、カラスは、数の多いほうの容器をつつくようになる。
  3. 覆いをかぶせた2個の小さな容器がある。覆いにはカワラバトとキジバトの写真がプリントされている。カワラバトの写真で覆われた容器に餌を入れておくと、カラスはカワラバトの写真のほうを選ぶようになるばかりでなく、カワラバトの写真がモザイク状に切断されバラバラに配置されていてもそちらを選ぶようになる。

 これらを拝見してまず目にとまったのは、実験装置や刺激が、ハトの自然な生育環境を配慮して作られているという点であった。心理学で紹介される実験的行動分析の研究では、被験体としてよく用いられるハトは、普通は狭い鳩小屋で個別に飼育され、実験の時だけハト用のスキナーボックスに搬送される。また、刺激の提示は、スキナーボックス壁面のキー、あるいは今の時代であればタッチパネル上に投映され、それをつつくと餌箱が機械的に提示されるような仕掛けになっているが、杉田先生の実験は、カラスの飼育ケージの中で行われており、刺激は人の顔や鳥の写真などが用いられていたようであった。
 このように、被験体動物の生育環境に配慮した実験を行うことにはそれなりの意義があると思うが、その一方、1回1回のトライアルのたびに、実験者が飼育ケージ内に入って、刺激提示用の容器を取り替える作業をするというのは大変手間がかかるし、また実験者のちょっとした仕草が手がかりになる恐れもあるように思った。

 番組で紹介された上掲の3つの実験に関する発表論文は拝読していないので、あくまでテレビ映像を見ただけの感想になってしまうが、
  1. 顔写真の弁別はハトでもできる。このほかハトでは、木の写っている写真と写っていない写真を区別したり、ピカソとモネの絵を区別することもできる。これらの区別はおそらく、カラスでもできるはずだ。
  2. 容器の覆いにプリントされた模様の数を弁別する実験では、覆いがもともと白地であったとすると、模様の数が増えるほど、覆い全体の明度が暗くなる点に配慮する必要がある。例えば模様が2個と5個の覆いでは、5個の方が全体に暗くなる。なので、「数が多いほうを選べるようになった」のではなく、「覆いが暗く見えるほうを選んだ」という可能性を排除できない。
    これをコントロールするには、例えば、色々な半径の黒丸を使用し、黒丸の大きさにかかわらず、黒丸の数だけを手がかりとして弁別ができるようになることを示す必要がある。半径3cmの黒丸2個よりも、半径1cmの黒丸3個のほうを選べるようになれば、カラスは、覆いの黒っぽさではなく、模様の数を手がかりにして選んだと結論することができる。
     なおこちらの記事では、「より多いほうを選ぶ」ではなく「より少ないほうを選ぶ」が行われたようにも読み取れる。その場合も、「覆い全体が白っぽいほうを選ぶ」が手がかりにならないように、模様の大きさをいろいろに変えて、明度をコントロールする必要があるように思う。
 なお、カラスを被験体とした刺激等価性の研究はこちらの展望論文でも紹介されているが、その後、どのように研究が発展しているのかは、隠居人の私は把握できていない。

 次回に続く。