じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 「接写で楽しむ雑草の花」。今回は、セイヨウカラシナ【写真左の列】とセイヨウアブラナ【右の列】。花の形はよく似ているが、葉の基部が茎を抱いていればセイヨウアブラナ、茎を抱かず葉柄がついていればセイヨウカラシナとして区別できるようだ。こちらに、より詳細な解説あり。
 なお、岡山では、かつては旭川土手や津山線の線路沿いに多数のセイヨウカラシナが繁殖していたが、最近は駆除が進みあまり見かけなくなった。セイヨウアブラナは、花期の長い品種が花壇で育てられているのを見かける。

2021年4月27日(火)



【連載】サイエンスZERO『びっくり!魚は頭がいい』その5 コンビクトシクリッドの「思いやり」と「意地悪」と「妻の目を気にする行動」

 昨日に続いて、4月18日に放送された『びっくり!魚は頭がいい』の感想と考察。本日が最終回。

 昨日取り上げたホンソメワケベラのミラーテストだが、追加実験では、

鏡像認知ができたホンソメワケベラは、最初のときより断然早く鏡であることに気付けた。

ことも分かったという。これについて、小島瑠璃子さんは「自分の顔はこんな顔と分かったからということですか? だから早くなるんですね。もう、すぐ自分だという認識ができる。」とつぶやいておられ、幸田先生もその通りだと肯定しておられた。

 このやり取りは、いっけん、誰でも納得できそうな分かりやすいようにも見えるが、そのいっぽう、擬人的解釈に惑わされているようにも思える。4月25日の繰り返しになるが、私自身は、以下のように考えている。
  • そもそも言語や 視点取得なしに「自分と同じかどうか?」を確認することができるのかどうかは、まことに疑わしい。
  • おそらく、言語を持たない動物たちにとっては、この世界は自己も他者もないただ1つの世界に見えているはずだ。但し、
    • その世界の中には、みずからの行動で変化する部分と、行動しても全く変化しない部分がある。前者に相当するのは、手足や発声器官、顎などである。
    • その世界の中には、痛みや痒み、熱い、冷たいといった感覚に対応する部分と、何の感覚も伝わらない部分がある。
    というように、何らかの境界のようなものがある。
  • それゆえ、言語行動的な意味での自己概念を持たない動物でも、「自分が関わる世界」と「自分が関わらない世界」を区別することはできるはずだ【「自分が関わらない」というのは、自分で動かせない、感じることがない、というような意味であって、関わらないといっても、天敵や獲物のように自分に影響を与える存在は後者に含まれている】





 番組の終わりのところでは、幸田先生の研究グループが行っている最新の研究が紹介された。この実験に使われたのは、コンビクトシクリッドという淡水魚であり、いちどつがいになると、同じペアで何度も繁殖を行う習性がある。実験の概要は以下の通り。
  1. 透明板で仕切られた水槽があり、それぞれにオスとメスが入れられている。
  2. オスの水槽の中には、青い部屋(アクリル板で仕切られ、ドアに青い四角形が張られている)と赤い部屋(ドアが赤い三角形が張られている)がある。
  3. ドアが持ち上げられた際に、オスが赤い部屋に入るとオスは餌を貰えるがメスは貰えない。
  4. ドアが持ち上げられた際に、オスが青い部屋に入るとオスもメスも餌を貰える。
この試行を繰り返すと、「装置のしくみを理解したオスは、ほぼ100%、青の部屋を選ぶようになった。」。この結果について、番組では「コンビクトシクリッドは、自分が置かれた状況を理解して、行動を選択していると考えられる」と解釈され、さらに小島瑠璃子さんは「この結果は何かしら、心の動きがないとこういう結果にならなそうですね。」とつぶやき、幸田先生も「【オスが】貰っている餌の量は一緒ですからねえ。相手の幸せを望んでいる感じ。」と肯定しておられた。

 さらに紹介された別の実験では、
  1. 隣接する水槽に、【つがいのメスではなく】見知らぬオスを入れた場合は、赤い部屋を選択した(=見知らぬオスには餌をやらない)。
  2. 隣接する水槽に、【つがいのメスではなく】見知らぬメスを入れた場合は、青い部屋を選択した(=見知らぬメスに餌をやる)。
  3. 隣接する水槽に、【つがいのメスではなく】見知らぬメスを入れ、もう1つ別の水槽(但し餌は与えられない)につがいのメスを入れた場合は、赤い部屋を選択した(=見知らぬメスには餌をやらない)
以上から「オスは、横に妻のメスが居るか居ないかをちゃんと認識し、いろんな情報を統合して場の状況を理解している」と解釈された。但し、これらの行動は、
  • オスは自分だけじゃなくてメスにも餌をやるということは、メスはたくさん卵を産んでくれるので、結果的には自分の利益になる。利益があるから自然淘汰で残ってくる。
  • 相手を思いやるようなそういう感情じゃないけれども動機。おそらくこれは、脊椎動物の初期に進化してきた。
  • そういう能力や知性の基本的なところは、魚の段階で、具体的に言うと4億年前に進化してきたんじゃないか、自己意識も4億年前にあったんじゃないか。
  • 人間になってから初めて自己意識が生まれたり、思いやりが生まれたりしたんじゃなくて、もっと昔から実はあった。
というように総括された。

 ここからはまた私の考えになるが、まず、幸田先生や研究室の皆さんが、魚を使ってこれだけの画期的な成果を上げられたことには敬意を表したいと思う。また、利他的な行動の進化についての解釈もある程度は納得ができる。しかし、魚が「場の状況を理解する」、「心の動きがないとこういう結果にならなそう」、「自己意識が4億年前にもあった」といった説明は、一般視聴者向けに専門用語を素朴心理学的に翻訳したという面はあったにせよ、やはり納得できないところがある。

 オリジナルの論文を拝読していないので正確なところは分からないが、上掲のコンビクトシクリッドの実験で、オスが赤い部屋を選ぶか青い部屋を選ぶかということは、行動分析学的に言えば、それぞれの部屋に入る行動がどういう結果によって強化、あるいは弱化されたのかということに尽きる。なので、思いやりがどうだとか、ライバルに意地悪するということではなく、選択行動を強化、弱化した結果、つまりどういう環境変化が生じたのかを克明に記録することが肝要かと思う。

 そうしてみると、まず、どちらの部屋を選んでも、オスが受け取る餌の量は変わらない。なので、選択行動を左右する要因は、それに付加された結果、つまり、どちらかの部屋を選択した直後に、つがいのメス、もしくは見知らぬオスやメスが、どういう動きをしたのかを克明に調べる必要がある。
 ここからは私の推測になるが、オスにとっては、縄張りの中にいるメスが同時に餌を食べたり、食べ終わって満足した状態になるような動きをとることは、それ自体、プラスαの強化因になっているに違いない。なので、オスは、別段、メスを思いやるとか養うという見通しのもとに青い部屋に入るのではない。単に、青い部屋に入った時に、プラスαとなる好子(強化子)が随伴したから、そちらを選ぶようになるのである。
 いっぽう、縄張りの中に入ってきた別のオスが餌を食べるということは、餌を奪われた状態であって、これはおそらく嫌子(弱化子)の随伴になる。
 縄張りの中で、見知らぬメスが餌を食べ、かつ、つがいのメスが餌を食べられずに暴れていたというのは、おそらく嫌悪的な眺めになる。

 要するに、オスが青い部屋を選ぶか赤い部屋を選ぶかというのは、選んだ直後に、他の個体がどういう動きをしたのかという結果によって強化されたり弱化されたりするだけであって、それ以上に擬人的な説明を付け加えたところで、行動の予測と影響という点では、冗長な解釈に終わってしまう、と言わざるを得ない。

 利他的な行動がどう進化したのかという点については、番組の説明に特に異論はないが、「心の動きがないとこういう結果にならなそう」とか「自己意識が4億年前にもあった」という仮説については、私自身は納得できなかった。何度も言うが、自己意識の起源は、(恣意的に設定された関係反応が派生するという意味での)言語行動と視点取得に起源を求めるべきであろうと私は思う。