じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 半田山植物園の臨時休園が続いているため、代替のウォーキングコースとして、運動公園方面に行ってみた。運動公園北東には「岡山大学筋」のバス停があるが、時刻表を見ると、新型コロナウイルス感染拡大のため、神戸方面、大阪方面、徳島方面が全便運休となっていた。なお、「岡山大学筋」で停車しない高速バスもあり、すべての便が運休になっているかどうかは不明。

2021年6月7日(月)



【連載】ヒューマニエンス90分SP 「人間を生んだ力とは?」その4 「血液型の多様性の謎」

 昨日に続いて、NHKヒューマニエンス〜40億年のたくらみ〜

90分SP 「人間を生んだ力とは?」

についての感想と考察。

 番組では、「ウイルスが人間を生んだ?」に続いて「血液の多様性の謎」という話題が取り上げられた。血液の多様性と言えばすぐに浮かぶのが、A、B、O、ABという4タイプの血液型であるが、これは赤血球に関係している。赤血球の表面には糖鎖があるが、その糖鎖の先端にNアセチルガラクトサミンをつけているのがA型、ガラクトースをつけているのがB型、両方つけているのがAB型、両方ともつけていないのがO型となる。
 しかし、血液型にはこれ以外にもさまざまなタイプがあり、国際輸血学会が定めた血液型のうち種類が分かれているのは26とされている。このうちABO型は4種類と少ないが、Rh型は55種類、MNS型は49種類、Kell型は36種類というように極めて多様になっている。これらの種類をすべて掛け合わせると、223垓5989京1829兆5244億8000万通りになるという。ウィキペディアによれば、223垓、つまり223×1021に近い数としては、
  • 70×1021:観測可能な星の数
  • 100×1021:世界の海岸の砂粒の概算
などがあり文字通り天文学的な数となっている。
 番組によれば、血液型が多様であることのメリットの1つとして、病気に対する強さがある。例えば、ピロリ菌の感染リスクはO型が高く、マラリアの重症化リスクはA型が高い。こうした多様性により、たった1つの病で種が絶滅する可能性が低くなる、と説明された。

 番組に出演されていた石野先生は、このことに関連して、「ダーウインの進化論は何か役に立つ遺伝子が残るという考え方であったが、もう1つ進化を説明するのに中立説というのがあり、それによれば、進化はあくまで中立で、良くも悪くも変異の蓄積が要因、そうした生まれた多様性は、いずれ役に立つかもしれないが、あくまで「かもしれない」。環境がどのように変化していくのかは予測ができないので、どのように変化しても生き残れるように多様化した。哺乳類の有性生殖も、多様性を増すことで、何が来るか分からないが何か来た時にもしかしたら役に立つかもしれないという賭けをしている。」というように説明されてた【あくまで長谷川の聞き取り・理解による】。

 ここからは私の感想になるが、血液型の種類に223垓通り以上の組み合わせがあることは事実であるとしても、これまでのところ、そうした多様性が生存戦略にプラスに働いているという証拠は得られていないように思われる。例えば、上掲の「マラリアの重症化リスクはA型が高い」という特徴も、もしそれが生存戦略上、決定的であるほどに重大であるとするなら、マラリア蔓延地域ではA型者が少なくなると予想される。しかし、こちらのデータを見ると、A型最多がマラリアのリスクの少ないヨーロッパ、ロシア、日本に多い傾向は見て取れるが、アフリカに先祖をもつ人が多いと思われる「米国黒人」ではA型が81.8%というように圧倒的多数を占めており何とも言えない。
 今回の新型コロナに関しては、ネット上では「血液型でコロナ重症化に差? 「AB型はO型の1.6倍」 」という記事もあったが、その後、「米国の10万8,000人弱の患者データをレビューした結果、血液型と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患リスクや重症化リスクとの間には関連が認められないことが明らかになった。」という報告もある。現時点では、ABOの血液型別の感染リスク、重症化リスクには顕著な差が見られず、特定の血液型者に優先的にワクチン接種をする必要はなさそうに見える。

 ま、それはそれとして、専門的なことは全く分からないが、中立進化説にもいくつかの根拠があるし、
中立進化説では、突然変異の大部分が、表現型に影響せず、生物にとって有利でも不利でもない中立的な変化であるという事実に注目する。中立的な突然変異が起きても子孫を残せる確率の期待値は変わらないが、個体によってはたまたま多くの子孫を残すものもいれば、残せないものもいる。そのなかで、中立的な突然変異を起こした遺伝子は、運がよければ子孫の個体に残るだろうし、悪ければ消えてしまうだろう。この運良く子孫の個体に残った中立的な突然変異が集団のなかに広がって定着していく。つまり、遺伝子に起きた中立的な突然変異が、全くの偶然によって広がることでも進化が起きると考える。この過程を遺伝的浮動と呼ぶ。自然選択による進化が適応を生み出すのに対して、中立的な進化は前適応や遺伝的な多様性の原因になると考えられている。
という部分も大いに納得できる。

 あくまで私の素人的な発想であり、全く的外れになるかもしれないが、こんな例が考えられるかもしれない。ここに2種類の乳酸菌があり、どちらも40℃で最もよく発酵したとする。このうち、乳酸菌Aは、最適な繁殖条件が30℃、あるいは50℃というように±10℃の範囲で、異なる最適条件をもつ変異が起こりやすいものとする。いっぽう乳酸菌Bは、最適な繁殖条件が20℃、あるいは60℃というように±20℃の範囲で、異なる最適条件をもつ変異が起こりやすいものとする。いずれの場合も、40℃の条件で発酵させている限りにおいては繁殖力には差は生じない。そこで、2種類の乳酸菌を等量ずつ混ぜて、発酵装置の温度を20℃にしたり60℃にしたりというように激しく変化させたとする。何回か発酵を繰り返していくと、その中にある乳酸菌はB由来が圧倒的多数を占めるようになるだろう。これらの場合、例えば、60℃の条件で特定の乳酸菌がよく殖えるのは、その性質が生存に有利に働いたからだと説明できる。しかし、根本原因は、B由来のほうが変異の幅が大きいことにあったのであり、その多様性が結果として適応に貢献したことにある。なので、次に発酵装置を20℃に下げた時も、何度か繰り返せばB由来のほうが生き残りやすいと予測できる。自然界においても、環境変化が激しければ激しいほど、多様性戦略が結果として生き残りに貢献しやすいことは間違いなさそうに思える。

 次回に続く。