じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 半田山植物園の臨時休園が続いているため、代替のウォーキングコースとして、岡大農場付近を歩いた。写真は、私が最も気に入っているアングルから農場と半田山を眺めたものであり、蒜山三座を思い起こさせる風景である【但し、蒜山のジャージー牧場あたりから眺める三座は皆ヶ山、上蒜山、中蒜山であって、下蒜山は見えない。楽天版参照】。
 農場の風景は8年前と大差ないが、写真左側の半田山の斜面が土砂崩れにより凹んでいることが見て取れる。

2021年6月6日(日)



【連載】ヒューマニエンス90分SP 「人間を生んだ力とは?」その3 「ウイルスが人間を生んだ?」

 昨日に続いて、NHKヒューマニエンス〜40億年のたくらみ〜

90分SP 「人間を生んだ力とは?」

についての感想と考察。

 番組では、Y染色体に続いて、「ウイルスが人間を生んだ?」という話題が取り上げられた。ウイルスについては新型コロナ蔓延後にいくつかの関連番組を視ていたので、今回の内容もだいたい理解できた。

 ウイルスのポジティブな役割として挙げられたのは、胎盤の生成であった。Y染色体が生まれたのとほぼ同時期にあたる1億6600万年前、哺乳類の祖先がPEG10と呼ばれるウイルスに感染。このウイルスが胎盤形成に重要な役割を果たしていることが、最近の研究によって明らかにされた【こちらの概要】。進化上、胎盤という今まで無かった臓器がなぜ生まれたのかは、大きな謎であったが、最近の研究によれば、進化上、
  • 1億6600万年前、カモノハシのような単孔類からの分化にPEG10が寄与
  • 1億4800万年前、カンガルーのような有袋類から有胎盤類(真獣類)が分化する際にPEG11(RTL1)が寄与
ということが分かっているという。ウイルスは細胞に潜り込んで自分のコピーを作らせようとするが、その際に組み込まれた遺伝子がそのまま将棋の持ち駒のように利用され、新たな機能を獲得したというものであった。
 このほか、2億3000万年前には、SASPaseにより肌のバリア機能を支える酵素を作り出せるようになった。また上記のRTL1は、胎盤を進化させたばかりでなく、右脳と左脳をつなぐ神経繊維を発達させ、脳の情報処理能力を高めたことも分かってきたという。他にもウイルス由来の機能獲得の可能性がいろいろあるらしい。

 番組に登場された石野史敏先生(東京医科歯科大)も指摘しておられたが、これらの進化の背景には、地球環境の大変遷がある。卵生から胎生に進化したのは、地球上で一時期酸素濃度が12%ぐらいまで下がった時、酸欠にならぬように親の体内で酸素をもらうという利点があったためと考えられる。また、ウイルスというのは無駄なものをそぎ落として機能的な部分だけから成り立っている遺伝子を持っているので、環境変化に適応可能な新しい遺伝子の獲得に有用であるとも指摘しておられた。

 なお、石野先生の補足説明によれば、PEGというのは「Paternally expressed genes」の訳で蟻、父親から伝わったときのみ発現する遺伝子群である。なので、哺乳類だけは単為発生ができないという。但し、「ヒトのPEGとPEG11はY染色体ではなく、7番と14番染色体にある」という字幕も表示されており、なぜY染色体とは別なのに父親由来なのかはよく分からなかった。ネットで検索すると、石野先生の公式サイトの中にこちらのような解説があり、マウスの場合、確かにY染色体以外の染色体に、父親・母親由来のゲノムからのみ発現するPeg (Paternally expressed genes) 遺伝子群とMeg (Maternally expressed genes) 遺伝子群があることが説明されていた。「メンデルの遺伝法則は現代の分子生物学の基礎となっている重要な法則です。しかし、近年になって哺乳動物にはこの法則に従わない遺伝子群が存在しており、ヒトにおいても様々な遺伝病の原因となっていることがわかってきました。」という点で、臨床的にも重要な知見であるようだ。

 あくまで素人の耳学問に過ぎないが、遺伝子については2019年に放送された関連番組が大いに参考になった。その中で、「DNAには遺伝子と呼ばれる2%と、「何の働きもしないゴミ(ジャンク)だ」とさえ言われてきた98%の部分がある。」ということが取り上げられ、じつは「DNAの98%には、設計図(遺伝子)によって作られる物質の量やタイミングをコントロールする役割がある。」とも指摘されていたが、石野先生の公式サイトにおいても
哺乳類ゲノムの40-50%がレトロトランスポゾン由来の配列から出来ています。これらがゲノム中の単なるゴミなのか?何らかの意味(機能)をもっているのか?は明らかではありません。しかし、ゲノム配列の遺伝子ではない領域にも遺伝子発現調整に関わる重要な機能があることは間違いありません.ゲノムインプリンティングの制御のところでも述べましたが、そのような機能をもつゲノム機能単位を正確に同定して行く事が、今後の重要な課題です。
と記されており、今後のご研究の発展が期待されるところだ。

 次回に続く。