じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 各種報道によると7月3日の午前10時半頃、熱海市伊豆山地区で土石流が発生し、逢初川沿いに海までおよそ2キロにわたって流れ出たとみられているが、被害の全容はまだ分かっていないという。ツイッターに公開されている動画【オリジナルの発信は確認できなかった】から、その破壊力とスピードの凄まじさが実感された。
 「伊豆山」と言えば、かつて公立学校共済組合の保養所「潮音閣」があり、父が都立高校の教員をしていたことから家族旅行で泊まったことがあった。急な斜面を流れる川の音が聞こえていたのを記憶している。
 写真は、潮音閣の入口(2枚の合成)。写っているのは祖父。明治生まれの男性は旅行する時にもちゃんと背広、ネクタイ、帽子を着用していた。


2021年7月4日(日)



【連載】#チコちゃんに叱られる!「空がドンヨリだと憂鬱になるのは遺伝情報」という胡散臭い説明

 7月2日(金)に初回放送された、NHK チコちゃんに叱られる!の感想と考察。

 今回は、
  1. 空がドンヨリだと憂鬱になるのはなぜ?
  2. 男爵いもの男爵って誰?
  3. コロナ禍の働き方改革のコーナー:神秘の国 青森 日本のトワイライトゾーン
  4. 円周率がずっと続くのはなぜ?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。

 まず1.の疑問だが、番組では「現代人が働き者だから」と説明された。

 進化心理学を研究している石川幹人先生(明治大学)によれば、今からおよそ30万年前に誕生したホモサピエンスは食料を命がけで調達して生き延びてきた。およそ7万年前、食料が減ったため、アフリカから各地に移動し、違う環境で生き残る必要が出てきた。石川先生によれば、
  • Aタイプ:晴れていると活発に行動し、曇りや雨だと活動せずお休みモードになる遺伝情報を持ったタイプ
  • Bタイプ:晴れても天気が悪くても活動的になるタイプ
  • Cタイプ:晴れの日よりも曇りや雨の日が活動的なタイプ
という3つのタイプがあり、このうちAタイプが効率よく食料を調達し、かつ雨の日に体が濡れて病気になったり視界や足もとが悪くて事故死に遭う危険がすくない。よって何万年もの時を経てAタイプの比率が増えた。小林弘幸先生(順天堂大学)によれば、晴れている時には自律神経のうち交感神経が活動的になる一方、曇りや雨の日は副交感神経が活発となりリラックスする。なので本来、曇りや雨の日はリラックスするはずだが、石川先生によると、農業や漁業が中心だった時代は晴れの日に働いて雨の日に休んでいたのでリラックスできたが、産業革命以降は天気にかかわらず働くようになったため、体はリラックスモードだが働かなければならず憂鬱になるという。なお、曇りや雨の日のほうが好きな人は、雨の日でも食べ物が取れる所にいた人の子孫であり「雨の日は休め」という遺伝情報を保有しておらず憂鬱になることが少ない。このほか、「雨の日にいい思いをした体験を重ねると雨の日が好きになる」こともあると説明された。

 ここからは私の感想・考察になるが、率直なところ、これほど胡散臭い「説明」を聞いたのは久しぶりであり、これまで視聴したチコちゃんの放送の中でも5本の指に入りそうなトンデモバージョンであった。

 人間の行動の特性が何らかの遺伝情報を反映することは認めるとしても、晴れの日と曇りや雨の日の行動パターンに直結した遺伝情報が組み込まれているというのはにわかに信じがたい。しっかりした遺伝子解析に基づいて、本当に上掲の3タイプが存在するのか、気象環境の違いによってA〜Cという3タイプが本当に存在し、人種や民族によって比率に差が見られるのか、まずは証拠を示してもらいたいものだ。「曇りや雨の日のほうが好きな人は、雨の日でも食べ物が取れる所にいた人の子孫」というのも胡散臭い。本当に曇りや雨が好きな家系というのがあるかどうかも疑わしいし、そもそも遺伝情報と言ったところで、「顕性遺伝(優性遺伝)」と「潜性遺伝(劣性遺伝)」がある。

 ということで、番組では「進化心理学を研究している石川先生」と紹介されていたが、本当に進化心理学の専門家なのかどうかも疑わしくなってきた。念のためウィキペディアで検索したところ、ご専門は「認知情報論・科学基礎論・超心理学」となっていた。どうなっているのだろう?

 ちなみに「曇りや雨の日のほうが好きな人は、雨の日でも食べ物が取れる所にいた人の子孫」という論法は、血液型エセ科学の「Aは農耕民族、Oは狩猟民族」と似ているような印象を受けたが、ウィキペディアには、そうか、やっぱりねと思わせる、
2009年に石川は清水武との共同研究で、血液型性格関連の統計的研究で、血液型と性格の5因子モデルとの関連において効果量が小さいため予測力は小さいが統計的には関連が有意であった結果を、2つの心理学の学会誌に投稿したが、いずれも掲載を断られている。
という記述があった。掲載拒否の経緯についてはよく分からないが、日本のように血液型性格判断が広く流布している社会にあっては、「A型は○○」とか「B型は△△」といったステレオタイプが、自分自身の行動傾向の評定に影響を及ぼすことは考えられる。よって質問紙の性格検査をすれば、思い込みの影響(血液型ステレオタイプに繰り返し晒されたことによるインプリンティング効果)により若干の有意差が出ることは充分に予測できるはずだ。血液型性格判断が全く知られていない国で顕著な有意差が出たというなら話は別だが...。

 石川先生を個人攻撃する意図は全くないが、いくらチコちゃんが一般向けの娯楽番組であるからといって、諸説の中から面白さ、意外性、話題性のありそうな部分だけを誇大に取り上げるのはいかがなものかと思う。この番組が子どもたちに多大な影響力が及ぼすことを考慮するならば、進化心理学、あるいは進化生物学に基づく知見を紹介するのであれば、別の研究者によるセカンドオピニオンを求めて検証をするくらいの姿勢が必要かと思う。

 次回に続く。