じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



07月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る


 7月17日の昼、久しぶりにドクターイエロー(上り、のぞみ検測)を目撃した。例によって、黄金の大黒天像とのコラボ。【世界三大黄金像についてはこちら


2021年7月18日(日)



【連載】ヒューマニエンス 「“睡眠” ヒトは眠りで進化した?」 その5 夢と眼球運動

 昨日に続いて、 6月24日に放送されたNHKヒューマニエンス

「“睡眠” ヒトは眠りで進化した?」

についての備忘録と感想。

 番組の後半では夢についての最新の研究が紹介された。夢の話題については2020年8月16日放送のサイエンスZEROでも取り上げられており、今回の内容の一部はそれと重複していた。

 まず、松田英子先生(東洋大学)によれば、「夢の内容は基本的に脳に蓄積した記憶情報が再生される」と考えられている。それがランダムに引き出されて関係なさそうな他の情報と結びつき、荒唐無稽な夢のストーリーを生じさせる。そのさい、夢に出てくる記憶情報は、主にレム睡眠中に整理されているという。このあたりのお話については特に異論は無いが、少なくとも私の場合、夢に出てくる風景やストーリーは過去体験そのものではない。先が読めない意外な展開に驚いたりすることもあり、夢を見ることは私にとって大きな楽しみでもある。しかし、大概は目が覚めた直後に急速に消去されてしまう。

 続いて、小川景子先生(広島大学)の研究が紹介された。小川先生は、上掲のサイエンスZEROにも登場されていた。
 最初に紹介された、レム睡眠時に生じる急速眼球運動の頻度と夢の鮮やかさに関する観察調査であり、
  • 被験者の脳波を観察し、レム睡眠を確認。
  • 眼球運動が生じたら被験者を起こす。
  • 被験者は、夢がはっきり見えたかどうかを7段階で評価
というもので、その結果、眼球運動の回数が3分間で20回以下だった被験者の平均評定値は3.3、100回以下(20回より大?)だった被験者の平均評定値は4.8であったという。このことから、眼球運動が活発なほうが鮮やかな夢を見ていたと示唆された。
 もっとも、この観察調査については疑問がある。そもそも、夢の鮮やかさには個体差があるし、個々人がどれだけ正確に「夢の鮮やかさ」なるものを評定できるのかどうか疑わしい。実験室の環境にある程度慣れた人について、何回か観察を行い、個体内比較として眼球運動と「鮮やかさの評定」を記録すれば、もう少し説得力のあるデータが得られたのではないかと思われた。なお番組で紹介されたデータは、「二宮(2004)」、「川野(2016)」、「未発表」となっていて、出典がよく分からなかった。

 次に紹介されたのは、レム睡眠中に眼球運動が起こった時に脳のどの部位が活性化しているのかについて研究であった。それによれば、活発に活動していたのは視覚野であり、覚醒時に物を凝視した時の脳活動に酷似していた【Ogawa, K., Nittono, H., & Hori, T. (2006). Cortical regions activated after rapid eye movements during REM sleep. Sleep and Biological Rhythms,4, 63 - 71.】。このことから、レム睡眠の急速眼球運動後に視覚野の活動がありこれが夢と関係していることが示唆された。

 ここまでの内容をふまえた上で、眼球運動と夢との関係については2つの仮説があると紹介された。
  1. 【夢が先、眼球運動は後】頭の中に浮かぶ夢の映像を目で追いかけているから目が動く。
  2. 【眼球運動が先、夢が後】急速眼球運動が起こって目が動いた後に映像ができる。(眼球が動くことで脳が刺激され夢が誘導される)。
これら2つの仮説に関して、出演された松田英子先生は「どちらともはっきり言えない」、いとうせいこうさんは「夢を見ている時は、散発的なイメージがたくさん出現しているので、目では追いかけにくい」、上田泰己先生は「鮮やかな夢と目の動きは連動している(どちらが先ではなく相互に作用している)」と表明された。
 ちなみにMCの織田さんは、大人になってから夢を見たことがないという。このことに関連して、
  • 織田さんも実験室で起こしたりすれば夢を見ていたことが確認できる(松田先生)。
  • 夢を見ている時に活動している脳の領域が次第に明らかになりつつある。活性化している領域とレム睡眠は必ずしも厳密に対応しているわけではなく。ノンレム睡眠時にも見る夢がある(上田先生)。
  • 夢をよく覚えている人は芸術家タイプでクリエーティビティーがすごく高い(松田先生)。
  • おおらかで日常生活を完結(コンプリート)している感覚がある時は夢をあまり見ない(松田先生)。
  • 織田さんの場合は、俳優としての仕事の中で、非現実的なシーンを演じているため、そのことが夢の有無に影響している可能性がある。
  • 悪夢を頻繁に見て夢か現実化分からなくなる人については、覚醒時にその悪夢の筋書きをポジティブな内容に書き換えるような対応をすれば改善する可能性がある(松田先生)。
といったことが議論された。

 ここからは私の感想になるが、「夢が先か、眼球運動が先か」については私は、いとうせいこうさんの仮説が妥当であるように思われる。
 今回の番組では全く取り上げられていなかったが、この議論に関連して、「生まれつき全盲の人は夢を見るのか」という疑問が出てくる。ネットで「全盲 夢を見るのか」で検索すると、499000件もヒットするが、基本的には先天性全盲の人でも夢を「見る」ようだ。但し、晴眼者のような映像は体験できないので、夢を「聴く」、夢を「触る」、あるいはそれらから構成された特殊な映像空間を仮想体験するということに近いようにも思われる。
 あと、夢の中で音が聞こえたり、特別のメロディーが流れたりすることがあるかどうかについては、私自身は全く記憶がない。昔聴いたメロディーをすっかり忘れてしまった時など、翌朝目が覚めた瞬間にそれを思い出すことは稀にあるが、これは夢の中で聴いたのではなく、あくまで目が覚めた後に思い出したことになるのではないかと思われる。
 もう1つ、夢の中でケガをして痛みを感じることがあるかどうかも何とも言えない。あまりの痛みで目が覚めると、本当に痛みがあったということはあるが、これはホンモノの痛みであって、夢の中の仮想の痛みとは言い難いし。

 次回に続く。