じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 10月10日のよる、月齢3.9の月と金星が接近して見えた。今回は10月10日の03時36分が最接近だったので、10月9日の夕刻のほうがもっと接近して見えたはずだが、あいにく雲が多く撮影できなかった。

2021年10月11日(月)



【連載】ヒューマニエンス「“快楽” ドーパミンという天使と悪魔」その12 驚きや共感性とドーパミン

昨日に続いて、9月9日に初回放送された表記の話題についての感想と考察。今回が最終回。

 番組の最後のところでは、普遍的な人類愛とか、社会的な他者への振る舞いとか、人特有の他人の心を読み取る能力の発達にドーパミンが有効であるという研究が紹介された。中原裕之先生(理化学研究所)のグループはfMRIを使って、被験者に他人の気持ちを憶測した時の脳の状態を分析したところ、内側前頭前野の2箇所でドーパミンの影響と見られる反応が確認されたという。このおうち1箇所は「他人の気持ちを想像する」場所、もう1箇所は「他人との違いを比較する」場所であり、ドーパミンがこの2箇所を同時に働かせることで他人の立場に自分を置き換えて想像することができるという「共感性」が作られるという。

 坂上先生はさらに、ドーパミンは報酬予測誤差に対して出るばかりでなく、実はもう1種類あり、それはポジティブでもネガティブでも、いいことでも悪いことでも、もとにかく驚きに対して出る(予測できていなければ出る)というドーパミン神経細胞が発見されていると説明された。ジェットコースターやお化け屋敷なども、何らかの驚きがドーパミンを出している可能性がある。そのような、驚きで出るドーパミンが開拓精神を生んだのかもしれない。
 このほか、他人の幸せを自分の幸せと思うというのは人間の特徴なのか?という質問に対しては、坂上先生は、「前頭葉の中には、自分以外の人間を自分のように扱う場所がある。」と説明された。これに関連して、赤ちゃんが人に何かをあげようとする行動、これが発達して、他者が喜ぶことが自分の喜びになることなどに言及された。他人を思う時には2つのドーパミンのメカニズムが働いていて、1つは前頭葉の働き、もう1つは大脳基底核・線条体系の「考えすぎずにパッと判断する」という働きであり、後者が社会生活のなかで有効に働いている可能性がある。ということで坂上先生は、線条体系で学習することと前頭葉で考えることを一致させることが重要であると論じられた。

 ここからは私の感想・考察になるが、今回解説されたように、新たな挑戦志向や他者への共感のメカニズムにドーパミンが関与していることは確かであるとは思う。しかしそれでは、

●あの人はドーパミン放出が多いからいろいろな事にチャレンジしている

とか、

●あの人はドーパミン放出が少ないから共感性に乏しい

というように生得的な特徴に関連付けて行動を説明しているだけであって、個々人がどうすればもっと新しいことにチャレンジできるようになるのか、とか、どうすればもっと他者への共感を高めることができるのか、という改善には繋がらないように思う。
 それよりも、小さな成功体験を重ねるとか、視点取得(Perspective taking)のトレーニングを行ったり共同作業に少しずつ参加していくとかいうような、実践体験を開発することのほうが実用的であるように思われる。
 あと、ジェットコースターやお化け屋敷がドーパミンをもたらすという話があったが、絶叫マシンの場合はアドレナリンも大きく関与しており、上記のような「驚き」(予測できていない出来事)にかかわるドーパミンだけが関与しているわけではなさそうに思われた。

 坂上先生が論じられた「前頭葉の働き」と「大脳基底核・線条体系」との葛藤というのは、行動分析学の知見から言えばけっきょく、前者は言語行動、後者は直接効果的な強化の随伴性に対応しており、いいいちfMRIの助けを借りなくても、実践に役立つ形で充分に体系化できるように思う。もちろん、極端にドーパミン放出が少ない人に対しては、それなりの治療が必要であろうとは思うが。