じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 11月3日の朝はよく晴れ、東の空に月齢27.4の月が輝いていた。今月は、11月8日に金星食(但し、日中)、11月19日に部分月食、12月4日に皆既日食(但し、南極方面)というように月に関連した天文現象がいろいろある。

2021年11月03日(水)



【連載】ヒューマニエンス「山中伸弥スペシャル iPS細胞と私たち」(3)人造人間の可能性と恐ろしさ

 昨日に続いて、10月7日に放送された表記の番組についての感想・考察。

 番組では続いて、iPS細胞(人工多能性幹細胞)についてのより詳しい解説があった。ここでいきなり脇道に逸れるがiPS細胞は英語の「induced pluripotent stem cells」の頭文字をとったものである。ウィキペディアによれば、最初の文字が小文字の「i」であるのは、
命名者の山中が最初を小文字の「i」にしたのは、当時世界的に大流行していた米Appleの携帯音楽プレーヤーである『iPod』のように普及してほしいとの願いが込められている。
という理由からであるという。

 さて、番組によれば、私たちの体は、たった1つの細胞である受精卵から始まる。それが分裂を繰り返していろいろな臓器や部位を形作るのだが、受精から数日たった段階では1つ1つの細胞はどんな細胞にもなれるという万能性を持っている。その後の成長のルートは多岐にわたっており、一方通行であって元に戻ることはない。ところが、山中先生が見つけた4つの遺伝子を入れて培養すると、皮膚の細胞が万能性を獲得するようになる。一方通行が解除されて、受精後3日目(人は5〜7日)の状態に巻き戻すことができる。そして培養の条件等を変えることでそのiPS細胞からどんな細胞でも作り出すことができる。これによって「生命の時間を操ることができるようになった」というのがiPS細胞のスゴイところであった。

 iPS細胞は、受精後5〜7日の状態であり、私たちの体には200種類以上の細胞があると言われているが、理論的にはそのどれをも作り出すことができる。実際、すでに、心臓、目、脳などについて再生医療の研究が進んでいるという。
 1つ興味深いのは、iPS細胞より1つ前の段階である受精卵まではまだ作り出せていないという点である。受精卵から細胞が分裂している最初の段階は、赤ちゃんの体の要素と、胎盤というお母さんとを繋ぐ部分への運命決定が行われるが、その仕組みはまだ分かっていないらしい。

 iPS細胞とよく比較される細胞にES細胞(胚性幹細胞)があるが、これは受精卵から作った万能細胞であるゆえ、倫理的問題が生じる。とはいえ、iPS細胞が本当にES細胞と同じ機能をもつかどうかは不明であり、最終確認には至っていないようだ。

 番組ではさらに、iPS細胞を使った、前腸、中腸が分化・成長する過程を明らかにする研究(武部貴則・東京医科歯科大学教授)が紹介された。iPS細胞から作った前腸と中腸の細胞の塊をくっつけてさらに培養すると、人間が殆ど手を加えなくても、境界部分に新たな細胞が作り出され、そこから、肝臓、胆管、膵臓といった臓器が自律的に作り出されることが分かった。おそらく、中腸側の細胞に前腸側の何らかの細胞から物質が受け渡されているらしい。実際にお腹の中の赤ちゃんの成長の仕組みを観察することは難しいが、iPS細胞を活用することでそのプロセスが再現できたというところがスゴイ。

 ここからは私の感想・考察になるが、まず、iPS細胞というのはあくまで動物の細胞に関する話であるようだが、植物の場合はどこまで研究が進んでいるのか、ふと疑問が生じた。植物の場合、別段iPS細胞を作り出さなくても、小枝を切り取って挿し芽をするだけで、勝手に根が生えて、葉っぱをつけ、花を咲かせることが可能である。してみれば、植物が自律的に茎、根、葉、花、種に分化していく仕組みを解明すれば、人間の受精後の臓器の発達の仕組みのプロセスを解明することができるのではないかという考えが出てくるのだが、実際に、植物の研究者と動物の研究者がそのようなテーマで共同研究をしているのかどうかは分からない。いずれにせよ、植物の細胞というのはかなりの程度まで万能性を備えているように思われる。

 ES細胞やiPS細胞の研究が限りなく進めば、昔からSFでも取り上げられているような人造人間が作られる時代がくるかもしれない。そうなると、それぞれの人間は、結婚をしなくても自分のiPS細胞を作り、自分のコピーを作るということができるようになる。いずれ人類が何らかの原因で不妊化してしまった時には大いに役立つ技術となるだろう。反面、こうした技術を悪用し、
  • 人造人間を大量に作って奴隷化して働かせる。
  • 人造人間を大量に作って臓器移植の提供者にする
  • 天才と言われる人のコピー人間を作り、新兵器の開発をさせる
といった危険なたくらみが実行される恐れは全く無いとは言い切れないようにも思う。

 次回に続く。