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【連載】コズミックフロント「宇宙をひらく 究極の“時間”に迫れ!」(3)光格子時計の応用、楔前部から海馬へ 昨日に続いて、1月6日に初回放送された表記の放送の感想・考察。 昨日までのところで、ストロンチウム原子を使った光格子時計の話題を取り上げてきたが、光格子時計には、さまざまな応用の可能性が期待されているとのことであった。 放送の中で紹介されたのは、田中愛幸先生(東京大学)による測地学への応用であった。これまで使用されていた重力計は、円筒の中で落ち部物体の落下距離と時刻を調べ重力値を9桁まで測定するというものであった。この重力計により、地下のマグマの動きをとらえることができる。マグマが上昇するとその質量により重力がわずかに大きくなるためである。しかし、実際にはマグマ上昇により山自体も膨張して重力計の位置も変化するのでデータに誤差が出る。これまではGPSで補正してきたが、GPSは垂直方向の精度が不十分であり誤差を正確に測ることができなかった。急激な山体膨張が起きた時に光格子時計を使えば、重力計の高さの変化を非常に正確に知ることができて、マグマの上昇を正確にとらえることができる、と説明された。 もっとも、上記の説明はイマイチ分からないところがあった。「光格子時計で高さが正確に測れる」というのは、垂直方向に移動すると重力が少なくなり、相対性理論により時間が速く進むことを利用したものであったはずだ。しかし、マグマ上昇による山体膨張では、マグマの質量により重力が大きくなるはずだから、マグマの上昇がもたらした重力変化なのか、山体膨張で引力が減ったための重力変化なのかは区別できないはずである。重力計自体への影響も同様である。光格子時計が捉える重力変化と重力計自体が捉える重力変化の僅かな差を分析すればよいという意味だろうか? 放送では続いて、「『時間』は頭の中で作られる」という北澤茂先生(大坂大学)という研究が紹介された。実験では「昨日 本を読んだ」、「今 カレーを食べる」、「来週 東京に着く」というような時制を含む短い文を音声で提示し、脳の血流の様子と、音声提示された文が過去、現在、未来のどこに当てはまるのかを9件法で回答してもらった。その結果、言葉を聞いて「現在」だと思った時に、脳の楔前部(けつぜんぶ)という領域に強く血流が生じることが分かった。楔前部で入った情報は海馬で記憶される。これにより、現在の情報は過去の記憶となる。こうして、楔前部で捉えられる「現在」の位置が時間軸の中で徐々に未来の方向に押し出されていくという。こうして心の中に過去・現在・未来の時間軸ができていくと説明された。同じ結果は、英語や中国語を使った実験でも得られたことから人類の脳に共通の仕組みであると考えられる。「時間の本質である過去・現在・未来の区別は、私たちの心、脳が作り出している」 北澤先生はヒューマニエンスの「“時間” 命を刻む神秘のリズム」という回にも登場しておられたので、いずれまとめて感想を述べさせていただくことにしたい。要するに、動物は時間の流れの中で生きているが、楔前部から海馬への情報の受け渡しが無ければ、過去と現在の区別はもっと漠然としたものになるということだろう。例えば、庭にやってくる野鳥に毎日餌を与えたとする。人間は、「昨日も餌をやった」という過去の出来事を思い出すかもしれないが、鳥のほうは「この場所に来ると餌にありつける」という行動が強化されているだけであって、「餌を獲得しやすい場所に来た」という以外には何も感じないであろう。今回の北澤先生の研究紹介では、言語行動の機能には言及されていなかったが、言葉を使った実験であることから見ても、言語なしに時制を表現することはできない。【ヘウレーカでも言及されていたが、「パントマイムでは時制は表現できない」という】 次回に続く。 |