じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 2月28日の日没直前、太陽柱のような光の筋が見えた。雲の隙間の関係だと思われるが、太陽本体が2つ以上に分裂しているように見えるところも興味深い。

2022年3月01日(火)



【連載】サイエンスZERO「月が教えてくれる!? 地球と生命“共進化”の謎」その2 隕石の落下によりリン濃度が増えて多細胞生物の進化を促したという仮説

 昨日に続いて、1月23日に初回放送された表記の放送についての感想・考察。

 前回のところで、地球上での生命進化には酸素濃度の増減が大きな影響を及ぼしているという話題を取り上げたが、放送の後半ではもう1つの重要な物質として、リンの役割が紹介された。
 リンはすべての生物の根幹をなしている物質であり、DNA、細胞膜、ATP(生体のエネルギー通貨)などに使われる必須物質である。地球上でのリンの濃度は、8億年から7.5億年前のあたりでそれまでの10〜100倍に急増しているが、この原因が隕石が考えられるという。

 隕石由来の可能性は、生命進化とは全く関係のなさそうな月のクレーターの研究から明らかになった。それは、宇宙地球科学が専門の寺田健太郎先生(大阪大学)は2020年に月のクレーターの年代分析についての論文であり、およそ8億年前に隕石が集中して落ちていたこと指摘した。月に大量の隕石が落ちるということであれば、当然、同じ時期にも地球にも落下する。隕石がリンを含んでいれば【おおむね0.1%】、地球上でのリン濃度の急増を説明することができる。

 月面のクレーターの年代分析は、大きな隕石が衝突して砂が撒き散らされた上に新たにいくつのクレーターが生じているのかを数えることで可能となる。例えば直径93kmのコペルニクスクレーターの周りは、クレーターができた当初には砂が撒き散らされて平らになる。なので、新たな隕石落下が等頻度に起こると仮定すれば、撒き散らされた後にできた単位面積あたりのクレーター数を数えることでコペルニクスクレーターの年代を推定することができる。クレーターの新旧比較の方法自体は昔から知られていたが、寺田先生はクレーターを使ってクレーター自身の年代を決める方法を新たに開発した。その際に役に立ったのが「かぐや」の高精細画像であった。クレーターの解析は、諸田智克先生(当時・名古屋大学、現・東京大学)の研究室で行われたが、AIではなく、手作業で微小クレーターを数え上げるという地道な作業であったというところが興味深い。
 いっぽう、アポロの探査で持ち帰られた月面の砂は8億年前のものが多かったことから、寺田先生が更なる分析を行ったところ、大型クレーター59個のうち17個が8億年前にできていたことが分かった。寺田先生によれば、8億年前、小惑星帯にあった直径100kmの小惑星が衝突により粉々に砕け、木星の重力の影響でその一部が地球の軌道に進路を変えて月や地球にシャワーのように降り注いだ。寺田先生の推定によれば、隕石は最大で直径10kmにも及ぶ巨大なものがシャワーのように降り注ぎ、その総量は恐竜を絶滅させた隕石の30〜60倍に達した。

 放送では続いて、小惑星の集団の太陽からの距離を横軸に、明るさを縦軸にとった時の分布が紹介された。1つの小惑星が粉々にくだけた時の分布は逆さの三角形のように左右対称形に広がるのだが、オイラリア族では、逆三角形の部分のうち右半分(太陽からの距離が中央値よりも遠い部分)は消失している。この原因は、木星の重力によるものである。地球から太陽の距離を1とした時、太陽から2.5以遠の距離では木星の影響により安定した軌道が保てなくなり、あちこちに振り回されてしまう。そのようにして振り飛ばされて地球に降り注いだ隕石は数十兆トン、そうすると隕石に含まれるリンの量は数千億トンと推定され、当時の海中のリンの濃度を10倍くらいに増やす効果があったという。

 小宮先生によれば、リンが増加すれば、酸素発生型光合成生物も増える。それによって酸素が増え、多細胞動物の進化が促される。もう1つ、この時点では、何か大きな変革があることが必要。少しの変化では負のフィードバックがかかって元に戻ってしまうが、一気に変わることで違うモードになりそれが生物進化を促す、と説明された。

 以上の可能性は、まだまだ証拠を必要としている。地球上においても8億年前に隕石が大量に落下したとすればその痕跡が残っているはずなのだが[]、地球は月と違って環境変化が大きい。寺田先生におれば、全球凍結が起こって地球表面が凍ってしまうと、それがガリガリ地面を削ってしまうと、8億年前の地層もクレーターも消えてしまうため、8億年前の地層のサンプルを必要としている。ちなみに、はやぶさ2が探査したリュウグウはオイラリア族の破片の可能性があり、サンプル解析が進めば新たな証拠がえられる可能性があるという。
]地球表面には無いイリジウムがその地層で確認されれば、隕石大量落下の証拠になる。

 最後のところで、小宮先生は、8億年前の環境変動がどのようなものであったか、化石の研究と地球表層の環境変動を解読するという研究の組合せの重要性を強調された。

 ここからは私の感想になるが、今回の放送にもあったように、生命進化というのは、決して閉じた世界だけで目的論的に進むものではない。外部環境の急変の中で淘汰され、絶滅寸前のなかでかろうじて生き残った変異から次の生物が生まれること、またリン濃度の増加が無ければ多細胞動物はこれほどまでには誕生しなかった可能性のあることが、おおむね理解できた。
 ちなみに、私個人は、中学生の頃は地学・天文・気象のサークルに入っており、地学にも天文にもそれなりに関心があったのだが、高校2年頃からはしだいに興味を失い、大学入試の時には地学を受験科目に含めたものの、単に合格点をとるための手段と化してしまった。その頃、もし、今回のようなクレーター分析や地球環境の変動の研究が紹介されていれば、そういう道にもっと興味をいだくことができ、進路が変わっていた可能性もあるのだが、人生は1回限り、今となっては隠居生活の中で耳学問で「じぶんを更新」していく他はないというのが、残念でもあり諦めでもある。