Copyright(C)長谷川芳典 |
|
ケヤキの新緑が美しい季節となっている。写真は岡大・生協食堂(マスカットユニオン)2階から眺める新緑。 |
【連載】abc予想証明をめぐる数奇な物語(5)異なるものを同じと見なす技術 4月20日に続いて、 ●NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語【ブログ後編はこちら】 についての感想と考察。59分バージョンをベースにして、4月15日の23時から放送された89分「完全版」を参照しながら感想を述べることにしたい。 放送では、abc予想が提案された1985年、わずか16歳の望月新一青年がアメリカ・プリンストン大学に入学したというエピソードが紹介された。ウィキペディアによれば、望月博士の来歴は以下のようになっている。
放送ではここで、望月博士のエピソードからいったん離れて「そんなファルティングス博士を初めとする数学者が大切にしている現代数学の原理・原則があります」として、 ●数学とは異なるものを同じと見なす技術である(アンリ・ポアンカレ、1854-1912) の話題に移行した。放送では、その例として、
意外に聞こえるかもしれませんが、異なるものを同じだと考えるやり方が数々のブレークスルーを生みました。異なるものであってもそれを同じであると見なすことが数学者の物の見方であり、それが複雑なものを単純化し、問題を解くための強力な武器となってきたのです。と語っておられた。また、ファルティングス博士らは数の集まりと曲線を同じものと見なす考え方を推し進め、これにより数々の難問を解決し、フィールズ賞の受賞に繋がった。 しかし、望月博士は、いま述べた現代数学の原理・原則を打ち破る考えを提唱することになる。ある時、青年時代の望月は、ある日友人との「これまでの数学にとらわれないためにはどうすればよいか」という会話の中で、それは「どんな問題を証明すべきか」、「どんな問題に魅力を感じるべきか」という話であり、望月青年は、 ●問題自身はシンプルでも、その解決には非常な深さと構造が必要であるような根源的な難問を証明したい。 と話していたという。この会話が交わされたちょうどその頃、abc予想が成り立てばドミノ倒しのように数々の難問が解決されるというニュースが伝わってきた。放送に登場したノーム・エルキース博士(ハーバード大学、「abc予想が成り立てばェルマーの最終定理が証明できる」の発見者)は、黒板に、
ここからは私の感想・考察になるが、「数学とは異なるものを同じと見なす技術である」というのは、数学が具体的事物の個性には目をつぶり、共通性を抽象化、関係性を体系化した学問として発展したことはその通りであろうと思う。その数学の特徴は、小学校で教わる算数の中に徐々に現れてくる。私自身も学生・大学院生時代に何人かの小・中学生の家庭教師を担当していたことがあったが、小学生が算数を学んでいてぶち当たる壁の1つは、 ●ツルが5羽、カメが3匹います。足の数は合わせて何本? というような問題であった。もしそれが、 ●リンゴが5個あります。3個加えたら何個? であるなら話は簡単だが、見た目にも全く似つかず、機能も大きく異なっているツルの足とカメの足をなぜ「合わせ」なければならないのかは誰も説明してくれない。そのことをあっさり理解できる子どももいれば、なぜツルの足とカメの足が同じなのかを真剣に考える子どももいる。 次回に続く。 |