じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



04月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る


 妻の実家にあるナニワイバラ。義母が超高齢化しているため、そろそろ管理が難しくなってきている。来年も見られるかどうかは微妙。

2022年4月30日(土)



【連載】abc予想についての補足

 今回放送された、

NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語【ブログ後編はこちら

についての感想と考察は昨日で終了したが、その後ネットで検索したところ、abc予想についてのもう少し分かりやすい解説動画があったので、そこで学んだことを備忘録としてまとめておくことにする。

 4月19日に引用したように、そもそも今回の放送では、オリジナルのabc予想ではなく、簡易版のみが紹介されていた。すなわち、じっさいに紹介された

c/rad(c)<rad(ab)

という不等式は、abc予想の“簡易版”であり、ε→0、K(ε)=1として単純化したものとされていたが、放送ではεやK(ε)についての解説が全く無かったため、何のことやら分からなかった。このうちεというのは、ε>0を満たす任意の実数であるということまで分かった。またK(ε)というのは、私のこれまでの理解ではある種の定数。但し円周率やのような普遍的な定数ではなくて、εの値に依存して決まる定数という意味のようである。なのでK(ε)=1であれば不等式から外すことができる。
 いっぽう、リンク先の動画では、abc予想は、
a+b=cを満たす互いに素な自然数の組(a,b,c)に対し、d=rad(abc)とする。このとき任意のk>0に対して、
c>d1+k を満たす(a,b,c)の組は有限個しか存在しない。
というように表現されていた。NHKの放送で使われていた表現に置き換えるとこれは、
a+b=cを満たす互いに素な自然数の組(a,b,c)がある時、任意のε>0に対して
c>rad(abc)1+ε を満たす(a,b,c)の組は有限個しか存在しない。
ということになる。この表現には、「謎のK(ε)」が含まれていないので、その不等式の意味することはこの私でも完全に理解できそうだ。

 なお上記で、「a+b=cを満たす互いに素な自然数の組(a,b,c)がある時」は、「互いに素な自然数a、bがあり、a+b=cとする時」と言い換えて構わないようだ。というのは、aとbが互いに素であれば、その和であるcを含めて、aとc、bとcのいずれも互いに素となることは背理法により簡単に証明できる。
aとbが互いに素でありながら、aとcは互いに素でなかったと仮定すると、aとcは約数pを持つことになり、a=px、b=pyと表すことができる(但しp>1)。よって、
a+b=cは、px+b=pyと置き換えることができるので、b=py-px=p(y-x)となり、aとbはp>1であるような共通の約数pを持つことになる。これはaとbが互いに素であるという前提に反する。
同様に、bとcが互いに素でなかった場合も、aとbが共通の約数(>1)を持つことになりやはり互いに素であるという前提に反する。
よって、aとbが互いに素であれば、a+b=cであるようなcを含めて自然数の組(a,b,c)は互いに素となる。

 また、NHKの放送で使われた簡易版との同一性に関しては以下のように変形することで理解できる。簡易版ではε=0としているので、
  • c>rad(abc)1+εは、c>rad(abc)となる。
  • a、b、cは互いに素なので、rad(abc)=rad(ab)・rad(c)
  • よって両辺をrad(c)で割れば、c/rad(c)<rad(ab)
【但し、以下に述べるように「簡易版」には無限の例外があるようだ】
 次に、

c>rad(abc)1+ε を満たす(a,b,c)の組は有限個しか存在しない。
という部分であるが、ここでε=0とした場合は、不等号を満たす(a,b,c)の組は無限個存在することが分かっているという。動画で紹介された例(ネット上の別のコンテンツからの借用)は、
a=1、b=32^n-1、c=32^n
というものであった【htmlでうまく表記できなかったが、「2^n」という部分は、「2n」と同じ意味】。この場合、n=1、n=2、n=3、...というようにnをどんどん大きくしていっても不等号の関係は無限に成立するという。
 興味深いのはε>0の場合である。動画ではε=0.1の事例が取り上げられていた。もちろんその場合でも、不等号を満たす自然数の組(a,b,c)は存在するのだが、その個数は無限にはならないようだ。εがどんなに小さかったとしても、個数が無限にならないというところ【但し「予想」】が素晴らしい。


 なお、4月20日の日記で、abc予想が成り立つと仮定するとフェルマーの最終定理が簡単に証明できることを引用したが、その時のεはε=1と設定されていた。そこでは、
  • n≧3で、xn+yn=znを満たす自然数の組x、y、zが存在したと仮定する。
  • x、y、zが互いに素でない場合は共通因数で割ったものを考えればよいので、互いに素である場合のみを考えればよい。
  • abc予想(但しε=1とした場合)により、

    n<rad(xnynzn)2

    という不等式が成り立つ。
というように証明を進めていたが、今回の動画の表現では、「不等式が常に成り立つ」とは断定されていない。上の式は、
abc予想(但しε=1とした場合)により、

n<rad(xnynzn)2

という不等式を満たす自然数の組(x,y,z)は有限個しか存在しない
となるはずである。「有限個しか存在しない」が「不等式が必ず成り立つ」に変身してしまっても構わないのか、このあたりは私にはよく分からないままである。【おそらく、ε=1の場合は、「有限個しか存在しない」は、「全く存在しない」となるのだろう。じっさい、例外として存在するトリプルの中で、これまでに分かっているεの最大値は1.6299であり、このときのaは2、bは310・109、cは235となっている。ε>1.6で例外となるのは、このほか2組のみであり、現在までのところそれら3組しか知られていないという。
 ちなみにウィキペディアでは、abc予想が正しいと仮定した場合、フェルマーの最終定理は以下のように証明できると述べている。
ただし指数が十分大きい場合。どの程度大きければよいかは K(ε) に依存する。定理自体は、ABC予想とは独立にワイルズが証明した。ある K(ε) が具体的に求まれば、有限個の例外を直接計算することにより、原理的にはすべての指数≧ 4 に対して証明が可能である。ε = 1 のとき K(1) = 1 という予想もあり、この仮定の下で、指数が 6 以上の場合は直ちに証明される (Granville & Tucker 2002)【4月20日の日記に引用した証明】。望月らは、フェルマーの最終定理の別証明を与えたとプレプリントで公表し、いくつかの誤りを認めた後2021年10月11日に別証明の達成を宣言した。
 ということで、abc予想をめぐる諸問題はまだまだ私の理解の及ぶところではないが、YouTubeでは他にもいくつか解説動画があり、少しずつ視聴しながら、「じぶんを更新」していきたいと思っている。

 このほか、
  1. 放送の中で言及されていた、「足し算では、aとbの遺伝子(素因数)からcの遺伝子(素因数)の形を予言することは全くできないのか?」
  2. ゴールドバッハ予想とabc予想との関係
  3. 素数はかけ算の世界に存在する概念だと思うが、足し算の世界にも素数に似たような概念はあるか?
  4. 純粋に演算法則だけで比較した場合、足し算と掛け算はどう違っているのか?

などについても考えていきたいと思う。