じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



05月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る


 半田山植物園のウマノスズクサで繁殖するジャコウアゲハの幼虫。今年はたくさんの幼虫が孵化しており、すでに過密化している。このまま成長していくと、ウマノスズクサの葉っぱはすべて食い尽くされてしまいそう。

2022年5月20日(金)



【連載】ヒューマニエンス「“老化” その宿命にあらがうか 従うか」(6)センチナリアンの原因と結果、若返りは必要か

 昨日に続いて、2022年4月12日に初回放送された表記の番組についての備忘録と感想。今回で最終回。

 昨日のところで、「センチナリアンがもつ特殊な遺伝子」の話題を取り上げたが、センチナリアンでは他にも、
  1. 認知症、動脈硬化、糖尿病になりにくい。
  2. 加齢に伴う炎症が穏やか。
  3. 特定の腸内細菌をもっている。
  4. 特殊な白血球をもっている。
といった特殊性が確認されているという。
 このうち特に興味深いのは4.であり、岡野先生によれば、一般人の通常の白血球では1個から順々に分裂していくが、センチナリアンの白血球では1個の細胞から一気に増えていく(=単クローン性)。この増え方は実は白血病と同じであるが、センチナリアンが白血病になることはない。但し、これがいいことなのか、それとも110歳まで生きたことによる老化のサインなのかは分からな。今後の研究では、例えば、APOEの4型を3型に変える研究などが進められているということであった。

 今井先生は、以上で紹介されたセンチナリアン(←今井先生は「センナリアン」と発音しておられた)の研究について、センテナリアンを決めている要素を明らかにするとともに、その特殊性が結果なのか原因なのかを探っていく研究が、車の両輪のようにできて初めて、一般の人々への応用が可能になると指摘された。

 ここまでのところでいったん感想を述べるが、上記のセンチナリアンの4つの特殊性のうち
  • 1.の「認知症、動脈硬化、糖尿病になりにくい」というのは、それぞれのリスク因子を取り除けば早死にしなくなるので結果として長生きする、という意味であり、ある意味では当然とも言える。但し、リスク因子を遺伝子レベルや食習慣などから正確に特定しない限りは、単に「病気にかかりにくい人は長生きできる」と言っているだけでトートロジーに陥る。
  • 2.の「加齢に伴う炎症が穏やか」というのも、その仕組みが分からないと「炎症が起こりにくい人は長生きできる」と言っているだけに終わってしまいそうだ。
  • 3.の腸内細菌の重要性はヒューマニエンス「“腸内細菌” 見えない支配者たち」でも取り上げられたことがあった。この時には、腸内細菌はそれぞれの人に固有のタイプがあり、無理やり入れ替えようとしても元に戻ってしまうという話を聞いたことがあった。なので、一般人がセンチナリアンと同じ腸内環境に入れ替えることは不可能と思われるが、いずれにしても、自分の腸内細菌を大事に保つ必要はありそうだ。
  • 4.の白血球の問題は、まさに、センチナリアンの原因なのか結果なのかに関わってくるように思う。例えば、センチナリアンの人は背骨が曲がっているとしても、背骨が曲がっているから長生きできたとは言えない。長生きしたから、結果として背骨が曲がった状態になったのである。白血球の「白血病型」の分裂も、110歳を超えて免疫系が働きにくくなってきたことへの代償的な変化であるかもしれない。





 放送の終わりのあたりでは、5番目のテーマとして「iPS技術で若返り」という話題が取り上げられた。デビッド・A・シンクレア先生(ハーバード大学)の研究室では、iPS細胞の技術を使って、老化したマウスの目の神経細胞に、ウイルスを運び屋にして直接3つの遺伝子を入れた。これにより老化したマウスは、若い頃を上回る視力になったという【←マウスの視力をどうやって測るのかは不明だが、指標として「cyc/deg」という値が使われていた】。ここで送り込まれた3つの遺伝子というのは、iPS細胞を創るのに必要な遺伝子4つのうちの3つであった。ここで、4つのうちの残りの1つは細胞を増殖するための遺伝子であり、通常iPS細胞がかかわる臓器移植や創薬の場合には欠かせないが、生きた細胞に入れると癌を誘発する恐れがあるという。なお、目の細胞自体は増殖しないという特徴がある。なお、上記の若返り研究が全身に応用できるかどうかについては癌のリスクもあり、そう簡単にはいかないようだ。

 ここから先のところでは、出演者の間でアンチエイジングについての議論があった。織田さんは、アンチエイジングの方法があれば何でも利用して若返りたいというお考え、いっぽう、いとうせいこうさんは、老化にはプラスマイナスの価値がある諸刃の剣であるというお考えを述べておられた。

 このほか、今井先生は、アンチエイジングにはそれぞれの国の医療体制や貧富の差などが絡んでいると指摘された。アメリカの一部の富裕層はいくらお金を使っても若返りを目ざそうとするので、そういう医療ビジネスが成り立つ。いっぽう国民皆保険制度のニッポンで、皆が「抗老化治療」を目ざそうとすれば破綻してしまう。

 放送の終わりのところでは、「老いたから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから老いるのだバーナード・ショー)」という言葉が引用されていた。

 ここからは私の感想・考察になるが、放送の終わりのあたりでの議論では、なんだか織田さんだけが番組全体の意図に反して、ひたすらアンチエイジングを求めているように見えた。若返りたいと思っている人は、ある意味では「若くないと人生を楽しめない」というタイプであるかもしれない。高齢者になっても、年相応の楽しみ方というのが別にあるはずで、それさえ追求していけば高齢者でも十分楽しい人生が送れるはずだ。「老いたから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから老いるのだ」というのは、おそらく、

●老いたから遊ばなくなるのは、年相応の遊び方に切り替えができなくなるからだ。年相応の遊び方が見つけられないとますます老いていく。

と言い換えるべきであろう。