じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 年末年始は、ほぼ毎年、妻の実家のある北九州に帰省することにしているが、今年の12月は寒気の影響で高速道路が通行止めになったり冬用タイヤ規制が行われていたりして、今のところ、車で帰省できるかどうかは微妙な段階となっている。画像上は12月24日朝の道路情報であるが、この時点では山陽道を含めて通行止め区間が多く、とても帰省できる状況にはない。画像下の12月25日時点ではだいぶ復旧しているが、まだまだ冬用タイヤが必要。

2022年12月25日(日)



【連載】ヒューマニエンス「“胃” 生きる喜びを創る臓器」(4)嘔吐、機能性ディスペプシア、ピロリ菌

 昨日に続いて、9月13日に初回放送されたNHKヒューマニエンス

“胃” 生きる喜びを創る臓器

についての備忘録と感想。

 放送では続いて、胃からモノを出す「吐く」という機能について解説された。食べた物に危険な毒があった時に選択できる緊急避難的な反応である。三輪先生は、さらに、吐くことは、便を出すと合わせて、「速く逃げるための合目的な反応」であると説明された。生物は外敵に対して戦うよりも逃げるようにできているが、その際、胃で食べ物を消化していると不利になる。そこでいったん胃の中の食べ物を吐き出して逃げることになる。じっさい、ヘビは外敵の危険を感じると、消化を中断し、胃から丸呑みした食べ物を吐き出して逃げるという。ヘビと同様、人間の先祖の小動物も食べ物を吐き出して逃げていたかもしれない。その名残として、極度の緊張やストレスなどが生じた時、外敵に襲われた時と同じような反応が起こり吐き気を催すことがあるという。
 なおこのことで1つ疑問に思ったが、私はかつて大学院生時代にラットを使った食物嫌悪条件づけの実験をしていたことがあったが、吐き気を催す効果のある塩化リチウム溶液を腹腔内注射しても、嘔吐反応は一度も起こらなかった。これはラットの胃の噴門の筋肉の働きによると聞いていたが、であるとすると、ネズミは逃げ出す時には物を吐かないものと思われる。それが適応的にどのような意味があるのかは謎である。

 ストレスによる胃の不調は「機能性ディスペプシア」と呼ばれる【「機能性」というのは感染症のような外部要因ではなく「胃の働きによって起こる」という意味】。いつも胃の調子の悪くなる人はいつもムカムカしているが、なかなか吐けない。嘔吐反応のプロセスでは、まず胃が動かなくなるが、吐けない人はその段階で止まってしまう。歳を取ると自律神経の活動が悪くなるので「もたれ」が生じる。

 胃の調子は、幼少時に受けたストレスの影響を引きずっている場合がある。子どものラットを母親と違うケージに10日間だけ隔離しその後は普通に育てたところ、そのラットは大人になってからも下痢をしたり胃の調子が悪くなったりした。その胃には幼少時からの炎症が僅かに残っていたという。胃の調子を整えるためには、食生活や薬ばかりでなく、自律神経を整えるためのヨガなどが注目されている。




 番組の終わりのあたりでは、強力な胃酸がある過酷な環境で生き延びているピロリ菌の話題が取り上げられた。ピロリ菌は地球上で唯一、人間の胃の中で棲み着くことができる。山岡吉生先生(大分大学)は、みずから30カ国に出向いて内視鏡検査を行いおよそ1万種類を越えるピロリ菌を収集している。ピロリ菌は酸を中和するバリアのような酵素を持っており、胃の上皮細胞にとりつき、病原性のタンパク質を注入することで発癌物質が生み出される。40年前に発見され、今では胃がんの9割がピロリ菌由来であると言われている。親子間の食事などで感染し子孫に受け継がれていく。
 山岡先生はピロリ菌を7つに分類し、DNAの塩基配列の系統から人類の歴史を解き明かす手がかりを得ようとしている。それによれば、ピロリ菌はどうやらアフリカ南部で生まれ、3つのグループに分かれたあと、6万年ぐらい前にアフリカを出て世界中へと広まった。ピロリ菌がヒトと一緒に日本にたどり着いたのはおよそ1万年前であるが、そこにはおおきな謎が存在しているという。都道府県別の胃がんの罹患率を調べると、46都道府県では10万人あたりで70人を上回っている。しかし沖縄県だけは36.9人となっていて圧倒的に少ない。さらに調べてみると、沖縄県民から採取されたピロリ菌の15%ぐらいはアフリカからの流れとは異なる種類であり、およそ4万年前に西アジアで分かれたものであるという(ウズベキスタン、カザフスタン、アフガニスタンあたりのピロリ菌に似ている)。1970年に沖縄で見つかった港川人は、現在の日本人とは遺伝的には関係が無く、およそ2万年前まで棲息しそのあと絶滅した人種であると考えられている。港川人は絶滅したが、ピロリ菌は何らかの形で現代人に受け継がれてきた可能性があるが、西アジアからどのようなルートで沖縄に運ばれてきたのかはまだ分かっていないという。
 胃がんの原因は殆どがピロリ菌であり、今後は胃の病気は劇的に減ると期待されている。なお、ピロリ菌に感染すると胃の粘膜が萎縮してピロリ菌自身も棲めなくなってしまう。これはまさしく胃がんの状態。しかし人間の寿命がもっと短かった頃は、胃がんになる前に死んでしまったため、胃がんにかかることはピロリ菌の繁殖、感染を妨げるものにはならなかった。
 ピロリ菌は40歳ぐらいまでに除菌すれば胃がんをもたらすことはないが、40歳を超えて除菌してもピロリ菌の影響は残っており、胃がんを100%防ぐことはできないという。今は、中学や高校でピロリ菌の検査を実施しようという動きがあるが、若い世代で除菌をすることの悪影響についても考慮する必要がある。

 ここからは私の感想・考察になるが、まず、沖縄県で胃がんの罹患率が低いということと、沖縄で採取されたピロリ菌の一部が日本の他地域と遺伝的に異なっているということの関係がよく分からなかった。おそらくウズベキスタン、カザフスタン、アフガニスタンといった西アジア地域(←中央アジア?)のピロリ菌は発がんリスクが低いということかと思うが、こちらのデータを見るとむしろ逆であり、世界172カ国の人口10万人あたりの胃がんによる死亡数(年齢調整値)ランキングを見ると、タジキスタンが4位、カザフスタンが5位、キルギスが7位、トルクメニスタンが10位、アフガニスタンが17位、ウズベキスタンが30位、というようにいずれも上位を占めていた(日本は25位)。このあたりはさらに調べてみないと分からない。

 ピロリ菌は私自身もかつて保菌者であり、2003年11月に除菌したことがちゃんと日記に記されていた。2003年と言えば私が51歳の時であり、残念ながら胃がんの心配が無いとされる40歳までの除菌には至らなかった。そのため胃の内視鏡検査を年に1回受けているが、これまでのところ異状は見つかっていない。私の母親は1988年に60歳の若さで胃がんで死亡した。当時はまだピロリ菌の検査が行われていなかったが、早期に発見できていればもっと長生きできたはずだ。