じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 1月6日の日記の終わりのところで言及したカシオの光ナビゲーションキーボードを近隣の電器店で購入。電器店の独自のクーポンや割引特典を利用したため、ネット販売よりはかなり安く買えた。
 購入の第一目的は認知症予防。毎日30分程度は指を動かすことにしたい。
 なお、1月6日の日記で「鍵盤数が88でなくて61となっていたが、『エリーゼのために』や『乙女の祈り』は、確か88鍵でないと出せない音があったと思う」と書いたが、実際は61鍵で弾ける範囲に編曲されていた。このほか、『トルコ行進曲』なども、短縮&編曲されていた。
 トリセツをちゃんと読んでいないので分からない点もあるが、小学校の時にピアノを習った程度の私のレベルでは、やはりブルグミュラーの曲を弾くのが精一杯。但し、『トルコ行進曲』のような難易度の高い曲でも、メロディーの一部を自分の指が担当することで、オーケストラの一員として演奏に参加しているような気分になれる楽しみはあった。

2023年1月17日(火)



【連載】チコちゃんに叱られる!「カレーの匂いを嗅ぐから食べたいのではなく食べたいから匂うのだ」という胡散臭い説明

 1月13日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 蛇口をひねると水が出るのはなぜ?
  2. カレーの匂いを嗅ぐとカレーが食べたくなるのはなぜ?
  3. なぜ人は展望台にのぼりたがる?
という3つの話題のうち、2番目のカレーのニオイについて取り上げる。

 まず「なんでカレーの匂いを嗅ぐとカレーが食べたくなるの?」という問いに対して、私自身が考えていた説明を先に述べる。これは伝統的な条件づけ理論に基づくものであり、
  1. カレーの味はレスポンデント条件づけにおける無条件刺激であり、またオペラント条件づけにおける強化刺激(好子)である。
  2. カレーのニオイは、美味しい味と対提示されたことで条件刺激となる。これによって、カレーのニオイが出現した時には、カレーを食べた時に生じるような消化器系の反応(条件反応)が誘発されるようになり、このことが「カレーを食べたい」という動機づけになる。
  3. いっぽう、カレーのニオイはそこにカレーが存在するという手がかり(=弁別刺激)となる。これにより、カレーのニオイのする方向に接近する行動(カレー屋さんに入店するとか、カレーを注文するといった行動)が自発されるようになる。
といった概要になるかと思う。

 これに対して放送で正解とされたのは「匂いを嗅ぐから食べたいのではなく食べたいから匂うのだ」であった。村田航志先生(福井大学)は、以下のように説明された。
  1. カレーが食べたいのは匂いに誘われるからではなく、脳が匂いを感じとっているから。
  2. かつては匂いに刺激され食欲が沸くと考えられていたが、最近では脳が栄養のある食べ物を覚えていて、そのとき体が欲しがっている栄養の匂いを嗅ぎ分けていることが分かってきた。
  3. カレーの匂いの成分はスパイスであるが、そのスパイスには「胃を活発にする」「血行促進」「疲労回復」といった効果があり、またカレーには肉(タンパク質)や野菜(ビタミンなど)が入っているので、脳はカレーが栄養のある食べ物であるということを覚えていて、「胃を活発にする匂い」、「タンパク質の匂い」、「ビタミンの匂い」を嗅ぎ分けている。
  4. 【ナレーション】つまり鼻で嗅ぎ取った匂いの中から、そのとき体が欲しがっている食べ物の匂いを脳が嗅ぎ分けてこれを食べたいと思うようになる。
  5. 狩猟・採集時代の人々にとっては食べ物は簡単には手に入らなかった。そこで必要な栄養素の匂いを敏感に嗅ぎ分けて食べて生き延びてきた。その能力が現代人の体にも残っていて、本能的に欲しい栄養の匂いを感じ取れるのだと考えられている。
  6. 特にカレーは1つの料理でたくさんの栄養素が含まれるので多くの人々が反応しやすい食べ物である。
  7. 逆に食後は食べたものに含まれる栄養分が足りている状態になるので、もう必要無いと脳が判断し、匂いを感じにくくなる。
  8. 【ナレーション】2021年8月にノースウェスタン大学のトルステン・カーント助教授チームが発表した論文、
    Olfactory perceptual decision-making is biased by motivationao state.無料で全文閲覧可能
    では、空腹時にはシナモンロールと杉の匂いを同時に与えられた時にシナモンロールの匂いを嗅ぎ分けることができたが、シナモンロールを食べた後はそれらを嗅ぎ分けられず何の匂いか分かりにくくなったことが示されていた。つまり直前に食べた物の匂いは感じにくくなることが分かった。

 ということで放送でもスタッフにカレーを食べてもらい、その10分後に目隠しをして目の前にあるカレーライスの匂いを嗅いでもらったが、「ご飯」と回答し、そこにカレーがあることは嗅ぎ分けられなかった。




 ここからは私の感想・考察になるが、まず、特定の栄養素が不足した時にそれを求める行動は人間でも動物でも存在し、特定飢餓(specific hunger)などと呼ばれている【こちら参照。但し論文自体は当時の知見を総説したもので、相当古い内容となっている。】 しかし、雑食性の動物が種々の食べ物に含まれる栄養素を学習し、ある栄養素が不足した時に匂いを手がかりにしてそれが多く含まれる食べ物を求めるようになるとは考えにくい。というかそれが完璧にできていたら、太りすぎとか偏食は起こらないはずだ。
 特定飢餓に関して言えば、大量に汗をかいて塩分が不足した人であれば、塩分の多い食べ物、例えば梅干しとかラーメンの匂いを嗅ぎ分けて食べようとする行動は起こりうるとは思う。しかし、カレーのような様々な栄養素を含む食べ物について、いちいちその成分や効能を脳が記憶していて、総合的に栄養を取る必要が生じた時にカレーの匂いを追い求めるというのは少々行き過ぎた解釈であるように思う。

 ちなみに、カレーをたらふく食べたあとでカレーの匂いを感じにくくなるということは、レスポンデント条件づけの基本原理である馴化(habituation)として説明できる。要するに、カレーによって栄養分が足りたから感じにくくなるのではなく、特定の刺激を繰り返し提示されたことでその刺激に対する感受性が一時的に低下したためである。これは例えば、
  • 病院に入った直後は消毒液の匂いを感じるが、長時間病院内にいると感じなくなる。
  • 汲み取り式のトイレに入った直後はトイレの臭いニオイが鼻につくが、トイレの掃除をしているとそれほど感じなくなる。
  • 女子大で講義をすると、講義室に入った直後は香水の匂いが鼻につくことがあるが、しばらく講義を続けていると感じなくなる。
などいろいろ挙げることができる。
 放送で行われたカレーの実験でも、カレーをたらふく食べてもらう代わりに、カレーのニオイを含んだ液体(もしくはカレーのスパイスそのもの)を一定時間をかけて摂取してもらったあとで目隠しをしてカレーライスのニオイを嗅いでもらえば、同じように感じにくくなっているはずである。もしそういう結果となれば、スパイスの刺激だけでは栄養は満たされていないので「栄養が足りたからニオイを感じにくくなった」という説明は成り立たない。

 次回に続く。