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【連載】ヒューマニエンス『免疫』(4)『衛生仮説』 昨日に続いて、2023年1月10日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、 ●“免疫” 変異ウイルスを迎え撃て のメモと感想。 放送では続いて、「免疫を鍛えるためには」と題して、新型コロナ感染の地域差(人種差?)について興味深い話題が紹介された。新型コロナ発生当初、WHOは衛生状態が悪くワクチンが行き届かないアフリカでの蔓延を危惧していたが、じっさいに甚大な被害を出したのはアメリカやヨーロッパなどの先進国であった。井戸川雅史さん(札幌医科大学)の資料をもとに人口100万人あたりの死者数を比較すると、死者が多かったのはヨーロッパ、アメリカ、南アメリカ、南部アフリカに多く、そのいっぽうアフリカは南部を除いて相対的に小さな割合にとどまった。新型コロナによる死亡は主として免疫の暴走によるものだが、アフリカには免疫の暴走を抑える要素があるという。下川周子さん(国立感染症研究所)によれば、発展途上国は上下水道の不備などにより先進国と比べて寄生虫の感染者数が圧倒的に多い。1型糖尿病は免疫の暴走によりインスリンが作られなくなることで発症する先天的な糖尿病であるが、下川周子さんの研究によれば、1型糖尿病のマウスを寄生虫に感染させると免疫細胞の暴走が抑えられて血糖値が上昇せずピンピンしていたという。またエチオピアで行われた調査(2021年、メケレ大学のDawit Wolday教授による)によれば、新型コロナウイルスによる重症化率は寄生虫非感染者では42.0%であったのに対して、寄生虫感染者では7.8%にとどまった。日々汚い環境で免疫が訓練されることが重症化を避ける上で大いに役立ったようである。 寄生虫感染ばかりでなく、いつも刺激を受けている状態、あるいは腸内細菌や皮膚の常在菌に触れていることが重症化を防ぐという可能性については『衛生仮説』と呼ばれる。 衛生仮説の妥当性を含めて、新型コロナ対策としてゼロコロナ対策を徹底するほうがよいのか、何の規制も設けずに集団免疫の達成をめざすのか、あるいはその中間的なレベルで最善の策を探すべきなのか、については現時点ではまだ正解が分からないが、10年先か20年先になるのかはともかく、いずれちゃんとした検証が必要であるとされた。 ここからは私の感想・考察になるが、新型コロナ感染率や重症化率に地域差があることについては、こちらの連載でも取り上げてきたところであり、例えば、2020年7月の時点で紹介されていた『感染7段階モデル』は当時、日本で重症化率・死亡率が欧米より相対的に少なかったことを説明できていたように思う。このモデルはその後の日本国内での爆発的な感染を予測できなかったが、これはおそらくウイルス側がアジア人でも感染しやすいタイプに変異したためであり、モデルの中にそのような変異の可能性を想定していなかったことが予測を外した原因になっているのではないかと思われる。 ちなみに、人口100万人あたりの死者数と感染者数の割合を比較すると、どちらも欧米で多い点は共通しているものの、一部地域では「感染率は高いが死亡率は低い」という国・地域もあることが分かる。もっとも一部の国では、感染者数を正確に把握できていない場合があり、地域差をより正確に知るためには死亡率のほうが信頼できるかもしれない【←もちろん、死亡者についても一部の国では別の死因に置き換えられてコロナ死者の集計から外されている可能性がある】。 個人的な話題になるが、私の場合は、現役時代は大勢の学生を前に講義をしており、出席点重視のため多少の風邪でも出席する学生がいたことから、日常的に細菌やウイルスに晒されていた可能性がある。いっぽう定年退職後は、スーパーでの買い物以外では滅多に人と接することがないし、またバスや電車を利用する機会も殆どない。さらにコロナ対策でマスクや手指の消毒を励行していたことから、この先、混雑したバスや電車に乗ったり、人混みに出かけた時には、コロナやそれ以外のウイルス・細菌に感染するリスクがかなり高まっていると言わざるを得ない。せめて、近々接種券が送付されるはずの6回目接種と晩秋のインフルエンザワクチンの接種は必ず受けようとは思っているが、人為的な手段だけで防ぎきれるかどうか、心許ないところがある。 次回に続く。 |