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トンボの顔の接写。背後ではなく正面から接写したためカメラの接近には気づかなかったようだ。すぐ飛び去ってしまったため羽根や胴体の特徴をチェックすることはできなかった。 |
【連載】チコちゃんに叱られる!「ん」から始まる日本語が存在しない理由 昨日に続いて、7月14日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
「ん」から始まる言葉については、放送では「ことばとことばの間に入る接着剤だから」が正解であると説明された。 釘貫亨さん(名古屋大学名誉教授)によれば、そもそも日本には奈良以前までは「ん」の発音はなかった。「ん」の発音は平安時代に生まれ、鎌倉時代以降に「ん」という文字が生まれた。釘貫さんによれば、「ん」は言葉と言葉の間に入る接着剤として誕生した。例えば、現在では本を読むようにお願いする時は「本を読んでください」と言うが、平安時代は「本を読みてください」と言っていた。しかしそれではとても言いにくいので「読みて」が「読んて」、さらに「読んで」に変化した。この発音の変化は撥音便と呼ばれる。また「ん」は鼻にかかる音であるため「ん」に続く「て」はより発音しやすい「で」に変化した。例としては「学びて→学んで」、「死にて→死んで」、「住みて→住んで」が挙げられた。「何で」も「何て」が変化したと考えられる。 「ん」は漢字の「無」を崩した字から生まれた。また本や御飯は中国から来た漢語であり、最初は「ほぬ」、「ごはぬ」と発音されていたが平安時代に「ほん」や「ごはん」に変化した。 なお、狩俣繁久さん(琉球大学名誉教授)によれば、沖縄の那覇や首里あたりでは「ん」で始まる言葉があった。もともと日本の一部には「馬」を「んま」、「梅」を「んめ」という発音があったが、「ん」という文字が無かったため「うま」や「うめ」のように「う」という文字で表現したため、その文字に合わせて「うま」、「うめ」と発音されるようになり「んま」、「んめ」という発音は無くなっていった。これに対して沖縄では、文字が伝わった時にはすでに「ん」の文字も誕生しており、「ん」の発音が「ん」という文字でそのまま表記できたため発音がそのまま残ったと説明された。 放送では、このあと、「ん」で始まる言葉がある、沖縄出身の人とコンゴ民主共和国の人によるしりとりゲームが実演された。「ん」で終わる言葉でも失格にならないので、【同じ言葉を2度言わない限りは】ゲームは延々と続くことになる。 ここからは私の感想・考察になるが、まず「ん」という文字が無かったことと、その発音が無かったかどうかということは区別して考える必要があると思う。例えば「私は」の「は」は表記上は「は」だが、じっさいは「わ」と発音されている。「読みて」もしゃべり言葉では「読んで」と発音されていた可能性がある。このことに限らないが、昔の人たちがじっさいにどういう発音をしていたのかは証拠が無いのでなかなか分からない。「母には二度会い父には会わぬもの」というなぞなぞから初めて、当時の人たちは「母」を「ぱぱ」と発音していたのではないかと推測できる程度であろう。 放送の中で、「本を読んでください」は、平安時代には「本を読みてください」と言われていたという話があったが、この例は紛らわしい。なぜなら「本(ほん)」にはすでに「ん」という発音が含まれているからである。このことについては、そのあとで「本や御飯は中国から来た漢語であり、最初は「ほぬ」、「ごはぬ」と発音されていたが平安時代に「ほん」や「ごはん」に変化した」と説明されていたが、当時の人たちが最初から「ほぬ」を「ほん」、「ごはぬ」を「ごはん」と発音していた可能性もあるのではないか。もっともそもそも平安時代に「本」があったとは考えにくいし、中国語では「書」あるいは「図書」と呼ばれていたはずだ。 放送の中で、「もともと日本の一部には「馬」を「んま」、「梅」を「んめ」という発音があったが、「ん」という文字が無かったため「うま」や「うめ」のように「う」という文字で表現したため、その文字に合わせて「うま」、「うめ」と発音されるようになり「んま」、「んめ」という発音は無くなっていった。」という話があったが、「うま」については『大辞泉』では「「馬」の字音「マ」から変化したものという。平安時代以降「むま」と表記されることが多い 。」という記述があった。同様に、「うめ」についても「「梅」の字音「メ」から変化したものという。平安時代以降「むめ」と表記されることが多い」という記述があった。少なくとも「馬」の発音は、中国語の「ま」に由来しており大和言葉ではないような気がする。 「ん」から始まる言葉を持つ言語について、Bingに ●日本語共通語では「ん」から始まる単語は存在しませんが、世界の言語の中では「ん」に相当する発音から始まる単語を持つ言葉があると聞いています。どの言語でしょうか。 と尋ねてみたところ、 日本語共通語では「ん」から始まる単語は存在しませんが、世界の言語の中では「ん」に相当する発音から始まる単語を持つ言葉があります。例えば、韓国語には「ンブフル」という単語があります1。また、スワヒリ語には「ンジャメナ」という単語があります1。他にも、アフリカの言葉やインドネシアの言葉にも「ン」から始まる単語があるようです1。という回答をいただいた。 放送でも出てきた「ンゴロンゴロ」は私も知っていた。またロシア語でも、 Мне нравятся яблоки. 【私は林檎が好きだ】 という時の「нравятся」は「ん」から始まる単語であるように思う。 なおBingでは韓国語の「ンブフル」が紹介されていたが、竹富島にも「ンブフル丘」という地名があるようだ。 元の話題に戻るが、当初の疑問「なぜ「ん」から始まることばはない?」の答えとして「ことばとことばの間に入る接着剤だから」というのは説明にはなっていないように思う。撥音便の誕生や文字としての「ん」の誕生の経緯を述べても、「ん」から始まる言葉が無いということの答えにはなっていないからだ。これに代わる説明としては、 ●もともとの大和言葉は、「母音」、もしくは「子音+母音」のみで構成される音韻のみで成り立っており、子音だけという音は存在しなかった。「ん」は、 通常は子音であり、かつ、直前に母音を伴うため、単独では音節を構成せず、直前の母音と共に音節を構成する。ただし、「ん?」などのように語頭にある場合は、母音に代わる音節の核、すなわち音節主音として、単独で音節を構成する。したがって、鼻母音以外に発音される限り、すなわち子音である限り、「ん」は音節主音的な子音である。と説明されている通り子音の性質を持つものであるゆえ、大和言葉の音韻体系にはそぐわなかった。 ということになるかと思う。 次回に続く。 |