じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 10月19日の朝、備前富士(芥子山)の山頂から太陽が昇る『ダイヤモンド備前富士現象』を見ることができた。昨年10月19日と異なり、周りの薄雲が輝いていたため太陽の輪郭が分かりにくくなっていた。
 なおこの現象は、太陽の方位と備前富士との位置関係によって生じるため、岡山に住んでいる人がすべてこの日に見られるわけではない。場所を探せば、1年中いつでも、どこかの場所で鑑賞することができる。
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2023年10月19日(木)



【小さな話題】クローズアップ現代『藤井聡太 前人未到の“八冠”』

 10月17日にNHK総合で放送された、

クローズアップ現代『藤井聡太 前人未到の“八冠” 何が勝敗を分けたか秘密に迫る』

についてのメモと感想。もともと月曜日に放送されるはずであり録画予約しておいたのだが、放送の途中で緊急地震速報により中断し、翌日火曜日にやり直し放送となった。火曜日は録画予約していなかったが、NHKプラスで視聴することができた。
 藤井八冠の強さは、AIに匹敵する読みの深さであると思っていたが、最近では、自分がかなりの劣勢になった場合、敢えてその中での最善手ではなく、相手を混乱に陥れるような複雑な展開に持ち込む手を指すことがあるようだ。この点、劣勢になっても常に最善手を選ぼうとするAIとは異なっており、相手の心理に影響を与えることができるという点で「AI超え」ということができるかもしれない。実際、自分のほうが優勢に進めてきた相手は、秒読みに追われる中で藤井八冠が想定外の手を指すと「これは何かあるはずだ」と混乱して、最善手を指せなくなることがある。今回の王座戦の第3局と第4局は、まさにそういった展開となった。
 放送の中で特に興味深かったのは、永瀬の父親は川崎市でラーメン店を経営しており、麺やスープにこだわり決して妥協をしないという姿勢を貫いており、永瀬はそこから努力の大切さを学んだというエピソード。努力を絶やさないということは、永瀬の熱心な研究姿勢に結びついている。2015年に行われた将棋電王戦では、永瀬は1日10時間、AI相手に練習対局を800回、体調を崩しても休まずに事前準備を重ね、その結果、他のトップ棋士が相次いで敗れる中でAIに勝利を収めた。永瀬は「2万時間(研究を)やればかなりいいところまでいく」と語っていた。このように永瀬は努力の人として知られている。
 もう1つ興味深かったのは、藤井と永瀬は中学生の頃からの研究仲間であるということ。出会いは6年前、当時の藤井四段が『炎の七番勝負』という7人のトップ棋士と対戦する企画が行われた時であった。永瀬はその7人のうちで唯一、藤井に勝利した。勝ちはしたものの藤井の実力を認めた永瀬は、2人だけの研究会を開くことを提案した。この研究会は藤井の師匠、杉本昌隆八段の家で行われており、永瀬は朝から新幹線でやってきて終電ギリギリまでぶっ通しで、将棋盤をはさんで藤井と向き合っていたという。
 番組の終わりのあたりではスタジオに出演した渡辺明九段に桑子真帆キャスターが「渡辺さんは今後この藤井八冠とどう戦っていかれますか」と尋ねたところ、渡辺九段は、ひとこと「さあ」とだけ返事をされた。桑子さんが「さあ、ですか。もう少し頂けますか?」と尋ねたところ、

自分がタイトルを持っていた時というのは、待っていれば藤井さんが挑戦してきたというのがこの2022年から23年までのことだったが、今は藤井さんがタイトルを全部持っているので、戦うためには自分が挑戦者にならなければならないので、どう戦って行こうかということは、今、いったん頭の中からは消えた。

というに答えておられた【口語表現の一部改変あり】。桑子さんがさらに「またそれが浮かび上がってくることはありますか?」と重ねたが、渡辺九段は再び「さあ」と返事をされた。

 このやりとりについては渡辺九段がX(旧ツイッター)で以下のようにコメントしておられた。
昨日の番組最後でまともに答えなかったのはウケ狙いではなく機嫌が悪かったからです。どれだけ答えようが、もらうお金は変わらないので別にいいんですけど、質問、それだけ?もっと話せたのにな、竜王戦の展望だって、第1局を自分は3日間現場で見てるのに聞かないんだ?そもそも、そのこと自体把握してんの?という思いが残りました。
これは仕方ないことですが、緊急地震速報で生放送が収録に切り替わって30分ほど中断したこと、朝に人間ドックを受けていて、、、(お察しください笑)という条件が重なって、機嫌が悪いのを制御できなくなりました。もうタイトル保持者っていう王様のような立場でもないのにプライドは高くてめんどーなやつでしょw
事前にリモートでもいいから打ち合わせの時間を取ってくれと言われた時に「いや、僕は生放送いきなりでもできるんで必要ないです」と断った自分も悪かったし。
【以下略】
さらに、
たくさんの励まし、ご意見、ありがとうございました。自分が怒りやすいこと、面倒なやつであることを改めて自覚しました。 今後は周りに迷惑をかけないように心掛けて、受けた仕事は誠心誠意、取り組みたいと思います
という書き込みもあった。

 放送の中の別の場面では、渡辺九段は、対藤井の戦略として、最善手の追求ばかりでなく、「弱者の戦い方」ということにも言及された。これは2020年の棋聖戦で渡辺棋聖(当時)が藤井さんとタイトル戦初対戦で敗れた時に語られたものであった。「弱者の戦い」というものは「負けてもともと」ということで本来は邪道。野球で言えばど真ん中のストレートに全部決め打ちで大振りするような戦い方であるという。しかしそれ以降の戦いでもうまく戦うことはできなかった。
 ま、渡辺九段としてはまずは各タイトル戦の予選・挑戦者決定戦で藤井八冠以外の棋士に勝利する必要があるので、挑戦者になるか、もしくはトーナメント式の棋戦でたまたま対戦しない限りは、対藤井戦略を練る必要は無い。「さあ」というお答えも頷けるところがある。

 AIの登場によって、一時は、人間が指す将棋は衰退し、斜陽産業化していくのではないかと懸念された。しかし今は、AIの推奨手や評価値が組み込まれることで、かつてのプロ棋士の解説だけを頼りにしていた時よりも観戦の面白味が増してきた。これは、刑事コロンボのドラマの倒叙ミステリーに似たところがあるように思う。刑事コロンボではたいがい冒頭に犯行シーンがあり、視聴者は犯人が誰なのかを知っていた上で、犯人を知らないコロンボがどうやって謎を解決するのかに興味をいだく。AI時代の将棋観戦でも、AIの推奨手はかなり正確であり、対局者が同じ手を指した時は「完璧」と称えられる。また今回の王座戦のように、最善ではない手がさされた時に相手がどういう反応をするのかにも興味が持てるようになるからだ。