【連載】チコちゃんに叱られる! 「頭から離れられない曲(イヤーワーム)」
10月20日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この回は、
- 「あの曲が頭から離れない現象」が起こるのはなぜ?
- 粘着クリーナーができたキッカケはなに?
- 【CO2削減のコーナー】神秘の国 青森 日本のトワイライトゾーン第4弾『日本のグランドキャニオン』
- 時間がたつと紙が黄ばむのはなぜ?
という4つの話題が取り上げられた。本日はこのうちの1.について考察する。
1.の「あの曲が頭から離れない現象」は『イヤーワーム(ear worm)。耳の中に虫が入り込んで鳴き続ける様子の喩え)』と呼ばれている。この現象が起こる原因は「脳の「メロディーのループ」から抜け出せなくなってしまうから…たぶん」であると説明された。
関口貴裕さん(東京学芸大学)及びナレーションによると、
- イヤーワームを学術的に研究するのようなったのはここ10年くらいでまだ分かっていないことが多い。イヤーワームの研究は2000年代初頭には行われており、2003年には、
James J. Kellaris. (2003)Dissecting earworms: Further evidence on the “song-stuck-in-your-head” phenomenon. Advances in Consumer Research, 31, 423-424.
という論文も発表されているが、研究が増えてきたのは2010年頃になってから。
- イヤーワームの原因を説明する1つ目の仮説は「脳が曲の続きを聞きたがっているから」というもの。曲を聴いている時には聴覚野が反応し、1曲を聴き終えると反応が止まる。しかし、ダートマス大学の脳科学チームの実験では、「知っている曲が途中で無音になると聴覚野は大きな活性化を引き起こした」ことが確認された。
Kraemer, D. J. M., Macrae, C. N., Green, A. E., & Kelley, W. M. (2005). Musical imagery: Sound of silence activates auditory cortex. Nature, 434 (7030), 158. 【放送ではタイトルの一部「Musical imagery:」が欠落して紹介されていた】
こうしたことから、曲が途中で終わってしまったことに脳が「もどかしさ」を感じ、続きを聞きたいと「うずうず」して、それを解消するためにイヤーワームが起こる。
- しかし、上記の1つめの仮説では、短い完結した曲(=続きが無い曲)でもイヤーワームが起こる現象を説明できない。
- イヤーワームの原因を説明する2つめの仮説は、脳が「メロディーのループ」から抜け出せなくなってしまう、というもの。イヤーワームは頭の中で音楽が聞こえる現象ではなく、頭の中で曲を思い出しながら歌っている現象ではないかと考えられている。聞きながら歌うとイヤーワームが起こりやすい。
- 曲の多くは同じメロディーを繰り返すループ構造を持っている。ループが流れると、脳は、ループの続きのメロディーではなく、ループの初めの部分を思い出してしまい、同じところばかりを繰り返してしまうようになる。じっさい、イヤーワームが起こりやすい曲はループ構造を持っていることが多い。
放送では、ディレクターを襲った「一度ハマったら頭から離れない魔の3曲」が紹介された。
- ボブ・ディラン「風に吹かれて」
- DA PUMP「U.S.A.」
- YOASOBI「夜に駆ける」。
ここからは私の感想・考察になるが、私自身はイヤーワームが起こりやすい傾向があり、そのことで思考が妨げられることもある。なので、音楽鑑賞はできるだけ避けるようにしており、歌番組は殆ど視ない。それでも、スーパーの店内放送のメロディーとか、ドラマの主題歌などが頭から離れず、ループが続くことがある。ここ数ヶ月以内でなかなか離れなかった曲としては、
- 慶應義塾・塾歌:夏の高校野球で慶応高校が優勝した時の場面を録画・再生したところ、その一部が頭にこびりついてしまった。
- 早稲田大学校歌:↑の慶応とのつながりでYouTubeで再生したところ、離れなくなった。
- NHK朝ドラ『らんまん』の主題歌
- NHK大河ドラマ『篤姫』の主題歌←4Kでの再放送を視ているうちに、離れられなくなった。
私の場合こうしたメロディーは、ウォーキング中や入浴中などに繰り返し生じてくるが、興味深いことは、2曲以上が同時に起こることはないという点。あくまで1つのメロディーだけが起こり、その際にはよく知っているはずの別のメロディーが思い出せなくなることさえある。
放送で紹介された2つの仮説のうち、2番目の「イヤーワームは頭の中で音楽が聞こえる現象ではなく、頭の中で曲を思い出しながら歌っている現象」というのは納得できるところがある。といっても、外国語の歌詞では殆ど歌えないし、最初から歌詞がついていないメロディーもある(例えば『乙女の祈り』のメロディーは歌うことはできない)。「歌う」というよりは「記憶再生」に近いように思われる。
いずれにせよ、放送で正解とされた「脳の「メロディーのループ」から抜け出せなくなってしまうから…たぶん」というのは、「頭から離れない」という現象を「脳がループから抜け出せない」という表現に置き換えただけのトートロジーに陥っているようにも思えてしまう。説明として成立させるためには、
- 「頭から離れないメロディー」の特徴
- 「頭から離れない」現象の適応的(もしくは非適応的)な意味
- 言語行動における連想、関係づけなどとの関連性
- どうすれば「離れる」ようになるか?
- 臨床的な意義はあるか? 不安や苦悩を「やり過ごす」手段になるか、それとも逆効果になるか?
といった点を明らかにする必要があるように思う。
次回に続く。
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