じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 12月23日の朝もよく晴れて、前日に続いて日の出の瞬間を眺めることができた。
 今年の冬至は12月22日の12時27分だったので、この日の出が、「冬至の瞬間のあとに見られる最初の日の出」ということになる。天文学的には、人間が勝手に決めた元日よりも冬至のほうが意味があり、これをもって初日の出と考えたほうが理に適っているかもしれない。
※写真左側の山は備前富士(芥子山)。



2023年12月23日(土)




【連載】ヒューマニエンス「“植物” 支配者は周りを動かす」(2)師管を通じた電気信号の伝達

 昨日に続いて、12月11日に初回放送された、NHK『ヒューマニエンス』、

「“植物” 支配者は周りを動かす」

についてのメモと感想。

 放送では続いて「脳が無くても植物は感じている」というタイトルでスタジオ解説者・豊田正嗣さんの研究が紹介された。
 これまで、植物が昆虫に囓られるとその情報が植物全体に伝わり、数分以内に、離れた葉でも消化不良を引き起こす物質(苦味物質『ポリフェノール』)を作り出すと考えられてきたが、脳や神経を持たない植物がどうやってその情報を伝えているのかは分からなかった。豊田さんの研究室では、特殊な光の照射により、植物に流れる電気信号を可視化することに世界で初めて成功した。葉っぱがハサミで切られたり虫に囓られたりすると、傷つけられた場所から他の場所に明るい光が広がる。その仕組みは動物の神経と似ており、葉っぱで作られた養分を運ぶ師管が伝達を担っている。葉っぱに異変が起こるとそこにカルシウムイオンによる電気信号が流れる。「植物は神経も無ければ運動することもできないが、動物の脳に使われているような仕組みを使っていろんな情報を処理して環境に適応しながら生きている」と説明された。
 続いて紹介されたのは、人が触れただけで植物の成長に大きな変化が現れるという研究。シロイヌナズナのポット苗を2つの群に分け、1つの群は1日3回手で触った。すると、触らない群に比べて触った群は成長が妨げられ30日後には顕著な差が現れた。成長が妨げられた原因について、スタジオでは「敵から目立たないように小さくなる」、「触られたことで天井があると認識された」といった声が出されていたが、豊田さんによれば「自然界で触れられるという状況は、近くに自分を食べる動物や昆虫がいることが多い、そのため植物は生存戦略として防御反応を引き起こす。防御反応にエネルギーをたくさん使うので、結果として成長が遅れていく。」と説明された。
 放送ではさらに、オジギソウが触られた時に葉を閉じる仕組み、ハエトリソウが虫を捕らえようとして葉を閉じる仕組みが、いずれもカルシウムイオンの伝達によるものであると解説された。
 豊田さんによれば、動物や昆虫の神経は解剖学的に定義されており、植物をどんなに切り刻んでも神経が出てくることはないが、植物にも、ある地点での情報を全身に伝えるような仕組みがある。しかしまだここ数年の間に見つかったことなので、それを何と呼ぶのか、どういう言葉で定義すべきなのかについては、なかなか難しい。植物の場合は師管を通じてカルシウムイオンによる電気信号が通っているが、これは人間で言えば血管を通じた伝達に相当している。とはいえ、植物をあまりにも擬人化しすぎるのはどうかなあという議論もあるという。




 ここでいったん私の感想・考察を述べさせていただくが、まず、カリウムイオンによる電気信号の伝達という発見は驚きであった。もっとも動物の場合はいろいろな神経があるし脳にもいろいろな中枢があるので、体の中のいろいろな出来事を伝えることができる。いっぽう植物の場合は、師管を通じた伝達であるとすると、情報の中身は1種類だけということになる。それが「葉っぱの一部がちぎられた(囓られた)」という情報に限定されるのか、それよりももっと重要な伝えるべき情報は無いのか、についてはよく分からないところがあった。

 オジギソウに触れると葉が閉じるという現象は、子どもの頃から不思議に思っていた。筋肉が無いのにどうやって動くのかについては、細胞の収縮によるものらしいことはある程度聞いていたが、カルシウムイオンとカリウムイオンにより伝達するという話は初めて聞いた。じっさい埼玉大学の研究トピックス紹介記事にも記されているように、

オジギソウは動く植物として有名ですが、「どのようにして、葉を次々に閉じるのか」、「何のために葉を動かす(おじぎをする)のか?」については、不明でした。

という謎であり、解明されたのはつい最近であったようだ。もっとも現時点では、なぜオジギソウがこの特性を進化させたのかは不明であるという。オジギソウを食草とする昆虫があり、葉っぱを閉じる特性を持つことが生き残りの確率を高めたためだろうとは思うが、なぜこの種だけにおいてそのような特性が有利に働いたのかは分からない。

 ハエトリグサの捕虫についてはこちらに解説がある。要点を引用させていただくと、以下のようになるが、カルシウムイオンやカリウムイオンの働きについては特に言及されていなかった。
  • 昆虫などの獲物が2回または2本以上の感覚毛に同時に触れると、約0.5秒で葉を閉じる。葉が閉じると同時に周辺のトゲが内に曲がり、トゲで獲物を閉じ込める。葉を閉じるのに必要な刺激が1回ではなく2回なのは、近くの葉や雨の水滴などが触れた時の誤作動を防いだり、獲物を確実に捕えるための適応と考えられている。
  • 1回触れた後、もう1回触れるまでに20秒程度以上の間隔があると、葉は半分程度しか(又は全く)閉じない。この時間を記憶し、リセットする仕組みについては長らく謎だったが、2010年にジャスモン酸グルコシドという物質が関与していることが解明された【日本人の研究グループによる】。
  • 感覚毛に触れるとこの物質が出るが、1回の刺激だけでは葉が閉じる運動を起こすのに必要な量に足りないため葉は閉じず、2回刺激して初めて必要な量に達し葉が閉じるのである。葉が虫を取り逃がして獲物がない状態で閉じてしまう場合もあり、その場合は半日-3日程度で再び葉が開く。
  • 葉を閉じる行為は相当なエネルギーを消費するため、イタズラに葉を閉じさせ続けてしまうと、葉はおろか株全体が衰え、しまいには枯れてしまう。
  • 他の食虫植物同様、彼らにとっての捕虫は生存に必要なエネルギーを得るためではなく、肥料となる栄養塩を獲得するのと同じ行為である。だから、捕食しなくとも一般の植物が肥料不足になったのと同じ状態ではあるが、光合成で生産した糖をエネルギー源にして生き続けることはできる。


 次回に続く。