じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 半田山植物園で見かけた上弦の月と紅梅。月は見た目には梅の花の3倍くらいの大きさに見えるが、写真に撮ると一輪の花の大きさと殆ど変わらない。


2024年2月18日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! 『冷やかし』『指揮棒』『ムチンについての訂正』

 昨日に続いて、2月16日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。本日は、
  1. 船出の時に紙テープを投げるようになったのはなぜ?
  2. 「冷やかし」ってなに?
  3. 指揮者が指揮棒を振るのはなぜ?
という3つの話題のうち、残りの2.と3.について考察する。

 まず2.の『冷やかし』の語源であるが、放送では「紙を冷やす間のひまつぶし」であると説明された。
 斗鬼正一さん(江戸川大学)&ナレーションによれば、
  1. 「冷やかし」は江戸時代に生まれた言葉でそのルーツは紙の作り方にある。
  2. 江戸時代、紙は高級品だったため古い紙を回収したり落ちている紙くずを集めたりして再生紙を作り何度も使用していた。
  3. 再生紙を作る職人たちは浅草に多く集まっていたので浅草紙と呼ばれていた。品質が悪いので、おもにお尻を拭く紙として使われていた。
  4. 浅草紙は川の水にさらした大量の古紙や拾った紙くずを釜で煮て棒で叩いて細かくして、漉きあげてもう一度紙にしていた。
  5. 釜で煮たあとに水でおよそ2時間冷やすため、その時間をつぶすために浅草の紙職人は近所の吉原遊郭に遊びに行っていた。紙職人が働く地域には「紙洗橋」という地名が残っている。
  6. 紙職人たちは遊ぶ金もなくぶらぶらと見て回るだけで帰っていたので遊女たちは「あの客は紙を冷やかしている間にひまつぶしに来ただけの冷やかしよ」と呼んだ。そこから買う気もないのに来店する人や行為にも「冷やかし」が使われるようになった。
  7. 当時、吉原遊郭は文化や流行の発信地だったので「冷やかし」は全国に広まった。
  8. 殿様やお金持ちは舟を使ってで吉原遊郭に来ていたが、浅草紙職人は田んぼ道を歩いて来て足元や服が泥だらけだったため遊女たちは服装を見れば「冷やかし」かどうか分かった。
 番組ではさらに超高級腕時計店で冷やかしについて取材した。常連の冷やかし客の中には月に10回前後、18年で概ね2160回来店している人もいるが、冷やかし客はほかのお客さんが入店しやすくなるので店には迷惑ではないと言われていた。

 ここからは私の感想・考察になるが、私は、『冷やかし』の語源は「からかう」という意味の『冷やかす』から派生したものだと思っていた。念のため『新明解』を参照したところ、
(一)〔うらやみの気持を交えるなどして〕からかい気味に相手の高揚した気分に歯止めを掛けるようなことを言ったり したり する。「『早く帰りたい』と言うと『新婚さんはいいね』と同僚から冷やかされた」
(二)店に入って、買う気も無いのに品定めしたり 値段を聞いたり などして、店員の気を引くようなことをする。 「繁華街を冷やかして歩く」
 念のためBingに「『冷やかす』という言葉はいつ頃から使われていますか?」尋ねたところ、以下のような回答をいただいた。
「冷やかす」という言葉は、江戸時代に作られた最大規模の遊郭街である吉原から生まれた言葉だと伝わっています。吉原では、遊女たちが店先に並び、客の目を引くために着飾っていました。その際、職人たちが吉原をぶらぶらして、遊女たちに声をかけて時間を潰していたことから、「冷やかしの客」という表現が生まれました。また、からかったりすることを「冷やかす」というのは、遊女たちが店先で言葉を発することを控えるように言われているのに、返答に困るような声を投げかけて困らせる様子からきています。現在は、その場の雰囲気を冷めさせるような意味でも使われることがありますが、本来の意味とは少し異なりますね。1

(1) 冷やかすとはどんなことが由来になったの?冷たくするのとは .... https://kotobanogimon.life/?p=347.
(2) 流行語から死語まで網羅した「日本語俗語辞書」 | ライフ .... https://www.lifehacker.jp/article/120124slangdictionary/.
(3) 言葉の歴史をたどって :来たるべき辞書のために. https://japanknowledge.com/articles/kitarubeki/?s=7&i=4.
(4) 漢字、ひらがな、カタカナの歴史や起源とは?ひらがな .... https://jpnculture.net/kanji-hiragana-katakana/.
上記では『冷やかし』の語源は放送内容と同じであった。『冷やかす』については「遊女たちが店先で言葉を発することを控えるように言われているのに、返答に困るような声を投げかけて困らせる様子からきています。」と説明されていた【出典はこちら】。
 なお、goo辞書によれば、『冷やかす』と『からかう』等の違いについては、以下のように説明されていた。
1 「からかう」は、人間だけでなく動物などに対してもいう。また、「冷やかす」「茶化す」が、言葉による行為であるのに対して、「からかう」は、言葉だけでなく態度や行為でも示される。
2 「冷やかす」は、多く、相手の高まった雰囲気や気持ちに水を差して冷(さ)ますようなことを言って、面白がる場合にいう。また、「夜店を冷やかす」のように、品物を手に持ってみたり、値段を聞いたりするだけで、買わないような場合にもいう。
3 「茶化す」は、はぐらかしたり、ごまかしたりして、冗談のようにしてしまう意。
確かに、「犬をからかう」とは言うが、「犬を冷やかす」とは言わない。ちなみに上記の「冷やかす=相手の高まった雰囲気や気持ちに水を差して冷(さ)ますようなことを言って、面白がる場合にいう」という説明であれば、吉原遊郭や浅草紙職人とは関係がない。語源はともかく、「高まった雰囲気や気持ちを冷ます」という一般的な意味として通じるように思う。但し買物の際の「冷やかし」とは共通性がなくなる。




 最後の3.の指揮者の指揮棒については、放送では「図形を見やすくするため」が正解であると説明された。野本由紀夫さん(玉川大学)&ナレーションによれば、
  1. 指揮者の仕事はテンポを示すこと。同じ曲・メロディーでもテンポが違うとまるで違う印象になる。
  2. 人数が少ない演奏では演奏者同士のアイコンタクトでテンポを合わせるが、オーケストラのように大人数だとテンポを合わせる指揮者が必要になる。
  3. バロック音楽の時代、作曲家ジャン=バティスト・リュリは大きな杖で舞台の床を打ちテンポを示していたが、あるとき自分の足を刺してしまいその怪我がもとで亡くなった。そういった危険性があるほか、杖だと余計な音が入る問題があり、音を出さずにテンポを示す腕を振るというやり方が考え出された。
  4. 指揮者はテンポ以外にも音楽の表情・強弱などのメッセージを演奏者に伝えるために空中に図形を描く。同じテンポでもシャープな図形のときと柔らかい図形のときで演奏者は表現を変えている。指揮棒を持つと演奏者に図形の表現が伝わりやすい。
  5. 指揮棒はまた、先端に注意を集めどこで図形を描いているか分かりやすくする効果もある。
  6. 指揮者は空いている手や体全体、顔の表情でも演奏者にイメージを伝えるがこれらの細かい動きにルールはない。
 番組では、世界の一流指揮者の動きが紹介された。日本のクラシック界を支えた指揮者・山田一雄さんは時に飛び跳ねるほどパワフルなスタイル。勢い余って指揮台から客席に転落し指揮棒を振りながら舞台に戻ってきたという逸話も持つレジェンド。
 なお、指揮棒は必ず持たなければならないというルールは無い。指揮棒を持たないことで描く図形は小さくなるが、そのぶん、空いた手で繊細な指示が出せる【指揮棒を持たないで指揮をするファビオ・ルイージの画像が紹介された】。

 オーケストラの演奏で指揮者が必要なのかどうかについては中学生の頃からずっと疑問に思っていた。もっとも指揮者は練習段階から楽団を指揮しているはずで、じっさいの公演ではその成果が披露されるわけだから、本番の時だけ指揮者無しにするというわけにもいかないとは思っていた。ま、観衆にとっても指揮者の身振り手振りを通じてそれぞれの曲のイメージをつかむことができるので、やはり必要であろうとは思う。



 指揮棒の話題のあと塚原アナから、過去の番組内容について訂正があった。
2023年7月28日および今年1月18日に放送された「なんでウナギはヌルヌルしているの?」に一部誤りがあった。ナメコ、オクラ、ヤマイモなどのヌルヌルした成分はムチンと呼ばれるタンパク質だと説明したが、異なる成分であった。かつては植物性のヌルヌルしてていた成分もムチンと呼んでいたが現在では動物性のものだけをさす。
 チコちゃんの番組では時たま、進化生物学やら脳科学やらにこじつけたトンデモ「解説」が飛び出し、このWeb日記でも何度も指摘をさせていただいているところであるが、放送の中で訂正をしたというのはかなり珍しい。この番組での説明は青少年から高齢者まで広く伝えられ影響を及ぼしていると思われる。バラエティ番組だからといっていい加減に制作することなく、専門家の説明であってもかならず別の専門家から点検を受けた上で放送するべきであろう。