じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 「良い、悪い、どちらでもない」を表す記号のの国際比較。「○×△」が通用するのは韓国だけ。↓の記事参照。


2024年5月12日(日)




【連載】チコちゃんに叱られる! 「○×△の由来」

 5月10日(金)に初回放送された表記の番組についての感想・考察。この日は、
  1. 「◯は良い」「×は悪い」「△はどちらでもない」なのはなぜ?
  2. ブービー賞があるのはなぜ?
  3. 年をとると老化するのはなぜ?
  4. 【視聴者の皆さんからのおたより】新しい靴を午前中に履く理由。
という4つの話題が取り上げられた。本日は1.の「○×△の由来」について考察する。

 放送では「◯×は先生から親へのチクリ帳、△は作文テストの書き直させマーク」が正解であるが、確かなことは分からないというように説明された。
 言語学を研究している芝垣亮介さん(椙山女学園大学)と言語の歴史を研究している山口謠司さん(平成国際大学)、及びナレーションによる解説は以下の通り【要約・改変あり】。今回はとても難しいテーマということで、『NHK ○×△対談』という趣向で行われた。
  1. 「○=良い」、「×=悪い」、「△=どちらでもない」という記号は世界では全く通用しない。「×」は多くの国・地域で「悪い」という意味で通用するが、「良い」を「○」で表しているのは日本と韓国だけ。多くの国・地域では「レ」や「V」の形に似たチェックマークが使われている。上の画像参照。
  2. 「○×」と「△」では成り立ちが違う。
  3. 「○×」の使用について記録が残っているのは明治時代の品行簿であった。これは家庭を行き来する連絡帳のようなもので、それぞれの日付の左横の欄に先生が○×をつけて生徒の品行を評価した。この評価は「甲乙丙丁戊」という5段階の成績評価とは別であった。但し×をつけ過ぎると生徒のやる気を奪いかねないので、あまりつけられなかったらしい。品行簿は全国の学校で行われていたので、日本中の人が「○は良い」「×は悪い」と認識するには十分であったと思われる。
  4. 明治時代以前の○×の使用については十分な証拠が揃っていない。
    • 道教で使われていた功過格説:『功過格』には善行(効)と悪行(過)が加点と減点の数値とともに書かれてあり、実践者は毎日の欄に合計点を記入する(『和字功過自知録』)。今は点数つきだが、かつては○×で記入していた可能性があるが、原本が残っていない。
    • 中国の和氏(かし)の壁説:春秋戦国時代の宝物で綺麗な丸型のヒスイであると言われており、中国では今でも「滅多に手に入らないとても価値があるもの」の喩えとされている。ここから「丸い=良い」とされた可能性があるが、一部の人しか目にしていないものなので一般に広まったとは考えにくい。
  5. 「×」は江戸時代の書物に「これは違う」という意味で使われていた例がある。
    • 江戸中期の『源氏物語湖月抄』には、間違った部分に大きな×印をつけ、その上に書き直した文章を記しているものがある。
    • 但しこれが発祥であるとするのは難しい。
  6. △については明治より前のことは分かっていない。
    • 北条氏の家紋や能の『鱗柄』に三角模様が使われている。
    • 能の『鱗柄』は、嫉妬で鬼になった女性役が着るなど、どちらかというとマイナスの意味。
    • 江戸時代の『適塾』では、「良い=○」、「悪い=●」、「良いの3倍良い=△」と評価されていたことが『福翁自伝』に記されている。なお、青空文庫による関連記述は以下の通り。
      会頭は勿論原書を持て居るので、五人なら五人、十人なら十人、自分に割当てられた所を順々に講じて、若しその者が出来なければ次に廻す。又その人も出来なければその次に廻す。その中で解し得た者は白玉、解し傷うた者は黒玉、夫れから自分の読む領分を一寸でも滞りなく立派に読んで了ったと云う者は白い三角を付ける。是れは只の丸玉の三倍ぐらい優等な印で、凡そ塾中の等級は七、八級位に分けてあった。
  7. 明治31年の『実験作文教授術』(先生用の作文添削本)には、
    • ×【「メ」に近い形】:誤字、誤格===文字ノ右側ニ附ス。
    • △:再考===更ラニ考ヘ直サシムヘキ符号。
    • ○:圏点===優等ノ号===主要ナル点ノ符号。
    • ◎;重圏===上乗ノ符===最モ緊要ナル点ニ附ス。
    というように△が指定されており、学校の作文添削で「良くも悪くもない」という意味で使われていた。この学校基準が日本中に広まった可能性がある。


 ここからは私の感想・考察になるが、○×△の由来についてはこれまで疑問に思ったことが無かった。世界の標準仕様かと思っていたが実は日本と韓国だけでしか通用しないと聞いて驚いた。「どちらでもない」という記号が無い国・地域があるというのも驚いた。記述式のテストとか、3件法の質問紙の回答欄はどうなっているのだろうか。またアメリカでは「悪い」という意味でも「○」や「×」が両方使われているというが、これでは正答なのか誤答なのかが分からなくなりそう。
 ウィキペディアには○×クイズという項目はあるが、○×の由来についての解説は見当たらなかった。
 Bingに○×△の由来を尋ねたところ、
  • 「○」は円満の意味を持ち、日本人にとって感覚的に納得できる記号です。
  • 「×」は「凶」の字に含まれており、「バツ」と呼ぶのは「罰点」によると考えられています。日本では採点の際に、「×」の代わりにもっと書きやすい「チェックマーク(レか/)」が使われることもあります。
  • 「△」は正解でも不正解でもない場合に与えられます。この記号は、日本の学校のテストで特に見られます。「△」は「うろこ」などとも呼ばれ、江戸時代の合い印や家紋にも見られます。
という回答をいただいたが、それぞれの由来については尋ね方を変えても上記以上の情報は得られなかった。

 ということで、せっかくチコちゃんの番組で取り上げてもらったものの、それぞれの記号の由来についてはモヤモヤ感が拭いきれなかった。

 ○×△の由来と利用の普及は、上掲の『実験作文教授術』発祥でどうやら間違いなさそうである。但しそのマニュアル本の執筆者も、全くの思いつきで○×△を割り当てたとは考えにくく、何かしらの文書や慣習に依拠していたはずで、その辺りは分からない。
 「×」が「悪い」「誤答」の意味で使われている国・地域はかなり多いようだ。これはおそらく、×印に消す、消えろというような印象があり、例えば街中の気に入らない顔写真に×印をつけたり、抗議デモのプラカードなどで抗議対象の名前や施策を表す言葉に×をつける場合に見られる。但し右下がりの斜線1本(例えば禁煙マークとか駐車禁止の標識)は×の簡略化ではなく、「N」を表していると聞いている。
 ちなみに「通行止め」の標識は日本では「×」印が入っている。また駐停車禁止の標識は日本のほかイギリス、フランス、ドイツでも×印が入っているらしい。もともと、×印は材木などを斜めに交差させることでそれより先の通行を禁止しているというイメージがあり、また、両手を交差するジェスチャーにも禁止のイメージがある。上記の「消す」「消えろ」のイメージと合わせて、これらの「通れない」「ダメ」が転じて禁止一般、さらに誤答を意味する記号になったと考えてもそれほど間違ってはいないように思われる。

 次回に続く。