じぶん更新日記・隠居の日々
1997年5月6日開設
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 7月3日の早朝、岡山は濃い霧に包まれた。ベランダで咲いているグロリオサも霧に包まれていたが霧の写真を撮るのは難しい。


2024年7月3日(水)




【連載】千の顔をもつ英雄(1)

 NHK-Eテレで7月1日に初回放送された、『100分de名著』:

キャンベル“千の顔をもつ英雄” (1)神話の基本構造・行きて帰りし物語

を録画再生で視聴した。もともと妻が予約録画していたもので『千の顔をもつ英雄』については何も知らなかったが、なかなか面白そうな内容を含んでいた。

 詳細記事にもあるように、この名著は、映画『スター・ウォーズ』や『ディズニー・アニメ』の元ネタして使われ、ジョージ・ルーカスを始め、多くのクリエイター、映画製作者、脚本家たちに圧倒的な影響を与え続けているという。著者のジョーゼフ・キャンベル(1904-1987)は、世界中の神話を調査・研究し、その中に、どの神話にも共通する構造があることを明らかにした。キャンベルはもともと敬虔なカトリック教徒であったが父に連れられてニューヨークの自然史博物館を訪れた時に自分が今まで生きてきた文化とは全く異なるネイティブアメリカンの文化があるということに衝撃を受けて神話に興味を持った。
 キャンベルによれば、世界中の神話には、「出立→イニシエーション→帰還」という共通構造が見出される。
  1. 主人公の英雄は、何者かの召命を受け、異世界への冒険の旅へと旅立つ。
  2. 異世界で、英雄はさまざまな試練に直面しながらも、それらを乗り越え、大いなる秘宝や自分にとってかけがえのないパートナーを得る。
  3. 最後に英雄は、自らが得たものを携え、さまざまな障害を振り払いながら現実世界に帰還。その世界に豊かな実りや変化をもたらすのです。
 こうした「行きて帰りし物語」は、神話に共通している構造というだけではなく、現実の人生における精神的な成長段階を確認したり、活性化したりするために、人類は「神話の知恵」を利用してきた。
 神話の基本構造は、反時計回りの円により図示されていた。12時の位置から始まり、9時の位置が「X:出立、旅立ち」、6時の位置が「Y:試練」、「Z:帰還」というプロセスをたどる。
 キャンベルは心理学者ユングの影響を受けたと言われており、中でも集合的無意識の考えを取り入れている。個人の顕在意識の下に無意識があるという考えと同様、集団の中にも無意識が存在し、その中に共通の元型・パターンがあるという考えであり、人類という集団の無意識の中の共通の元型があり神話も影響を受けているのではないかと解説された。神話は伝承であるが、人類がこの世界を生きていくうえで共通のノウハウとして太古から残ってきた。伊集院さんも、

あまりにその人にしか当てはまらないものはオレには関係ないって多分無くなる。より皆が心を打つように伝承していけば、より人間という動物全体の共通の話になっていく【←聞き取りで不確かのため一部改変】

 ここからは私の感想・考察になるが、まず、ユングの話は学部時代に河合隼雄先生の講義を直接拝聴したこともありある程度は知っているが、私にはイマイチ納得できないところがあった。上掲の伊集院さんのコメントは、実は『集合的無意識』やら『元型』といった仮想概念を持ち出さなくても適用可能な分かりやすい説明になっている。要するに、神話であれ民話であれ、伝承されるストーリーというのは、話し手にとっても聞き手にとってもより「強化的」(=その話を語ったり聞いたりする行動が強化される)な方向に淘汰されていく宿命がある。となればストーリーは、
  1. たまには幸運もあるが、全体としては主人公が努力を積み重ねて達成していくプロセス
  2. 困難な試練を克服していくプロセス
  3. 仲間との連帯、恋愛
  4. 最後はハッピーエンド
という構成を取らざるを得ない。ということで、多くの神話や民話が「出立→試練→帰還」という構成になるのは必然。また、いくら異文化と言っても地球環境という点ではそれほどの差異はないし、人間の身体構造、衣食住の手段にも大きな違いはない。なので、世界各地の神話や民話に共通性があるのは必然であり、わざわざ『集合的無意識』やら『元型』といった仮想概念を持ち出す必要はない(=説明概念として持ち出すのは冗長になる)と言わざるを得ないように思う。

 このWeb日記でも何度か書いているが、私たちの日々の生活は「いまここ」ばかりではない。過去を思い出したり(回想を楽しんだり、悔やんだり)、将来を考えたり(将来の夢を描いたり将来への不安に悩んだり)、というように多次元の空間を行きつ戻りつしながら生きており、さらには小説や映画のようなフィクションの世界や宗教の影響を受けながら多次元空間を生きているのである。今回話題の神話も同様であり、まずは出立場面で登場人物への共感を高めてから異次元世界で試練を受け、、最後の帰還によって達成感を共有するのである。
 もちろん、すべてがそのような展開になるとは限らない。ロミオとジュリエットの話はハッピーエンドではない。日本で人気の新選組の話なども、実話に基づく制約があるとはいえ、ちっともハッピーエンドではない。YouTubeでたまに視聴する笑ゥせぇるすまんなどもほぼ100%バッドエンドになっている。とはいえ、莫大な制作費を投じる映画などでは興行成績を挙げることが至上命令となっており、結果的には似たような無難な展開にならざるを得ないのではないかと思う【『猿の惑星第一作』のような意外な結末になる場合もあるが】。

 不定期ながら次回に続く。