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9月25日の夕焼け。日光の一部が雲に遮られて放射状に影ができていた。 |
【小さな話題】アリに言葉あり!?(3)音を出せなくなったら?文法はあるのか? 昨日に続いて、9月15日初回放送のNHK サイエンスzero: ●アリに言葉あり!?農業するアリの“会話”に迫れ! についてのメモと感想。 放送では続いて、キノコを育てるアリの中で、【1つの巣の個体数が少なく分業がない?】社会が単純なアリと、社会が複雑なハキリアリが巣の中でどれほどの音を出しているのかが比較された。その結果、1分間に音を出す頻度は、ハナビロキノコアリが0.3回、アレハダキノコアリが7回であったのに対して、ハキリアリは23回というように非常に密な音を出しており、大きな社会を作っているアリほど音を出す頻度が多いことが分かった。 昆虫のコミュニケーションといえばフェロモンが知られている。ハキリアリでもフェロモンは使われている。しかし狭い巣の中で複数のフェロモンが混在してしまうと情報が伝わらない。また刻々とと変わる状況に即応的に反応するには音の情報のほうがすぐれていると解説された。社会が大きくなればなるほどコミュニケーションの手段を多様にしていかないと、社会をうまくマネジメントできなくなるとも指摘された。 さて、これまでのところではハキリアリがどうやって音を出しているのかが説明されていたが、音を聞き取る仕組みのほうはどうなっているのだろうか? 村上さんのグループの研究によれば、ハキリアリの6本すべての脚の膝と付け根の部分、合計12か所に「耳」に相当する器官があるという。アリが聞き取る音は、空中を伝わる音(空気振動)ではなく、地面を伝わる基質振動であり、脚に受容器官があったほうが聞き取りやすいと言える。 続いて紹介されたのは、音の有無がハキリアリの生活にどのような影響を与えるのかという実験であった。特殊なボンドでハキリアリの
さらに、音を阻害したことで影響を受ける行動を調べたところ、
最後に村上さんから、今後の研究課題として、
ここからは私の感想・考察になるが、まず放送を視聴した限りでは、ハキリアリが音を発信・受信するしくみはコミュニケーションの条件を満たしているように思われた。もっとも発信者の発する音声を利用することが受信者たる個々の個体に利益をもたらしているのかどうかは分からない。放送でも言及されていたように、集団で生活するアリやハチなどでは、利他的な協力行動が保身をはかる行動よりも優先されており、脊椎動物で広く見られるオペラント行動の強化の原理では説明できない可能性がある。 ハキリアリが出す音は特定の状況と非恣意的に対応しているようだ。このあたりは人間の言語行動とは全く異なっている。人間の場合、林檎を「リンゴ」と呼んでも「アップル」と呼んでも何ら不都合は起こらない。ブーバ/キキ効果などの事例はあるにせよ、人間の言語行動では、対象(あるいは状態)と音声との関係は恣意的(arbitrary)に関係づけられている。これに対して、ハキリアリが出す音は、ある程度まではその個体の行動パターンと非恣意的に連動しているように思われる。例えば葉っぱを囓っている時に出す音は、ある程度まで葉っぱを囓る時の身体活動と連動しているのではないか。但し、もしそうであると、異なる音声のパターンの組合せを変えることはできず、文法も存在しないことになる。 余談だが、毎日ウォーキングに出かけている半田山植物園ではいま、ツクツクボウシがこの夏最後の頑張りで鳴いている。個体によって鳴き始めから終わるまでの「オーシンツクツク」の回数が異なる場合はあるが、「オーシンオーシンツクツク」とか「オーシンツク、オーシンオーシン」というように「オーシン」と「ツクツク」の組合せを変えることはできない。ハキリアリが10種類以上の音を出せるというのは驚異的ではあるが、音のパターンを組み合わせたりするようなことはまず不可能と思われる。 放送の終わりのところで紹介された「音を出せなくする実験」はなかなか興味深い。そのさい素人ながら思いついたのは、例えば「見張り」や「キノコ畑の世話」に対応した音声を人工的に提示した時、アリたちがどのような行動をとるようになるかという実験である。もし人工的な刺激であってもアリたちが利他的な協力行動を復活させることができるようになればさらに面白いかと思う。 |